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2022年2月13日号
東京 数奇な〝航海〟たどった「舵輪」 第五福龍丸の展示館で公開へ
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 1954年3月、太平洋のビキニ環礁で米国の水爆実験に遭遇し、被ばくした遠洋マグロ漁船、第五福龍丸。その船体は76年以来、東京都江東区夢の島の「第五福竜丸展示館」に展示されているが、長年不明だった船の「舵輪」が見つかり、今春から同展示館で公開されることになった。

 この舵輪は1年ほど前に突然、展示館に届けられた。都内に住む男性が車に積んで「第五福龍丸の舵輪です」と言って持ってきた。驚いた展示館の学芸員に男性が語ったところによると、遡(さかのぼ)ること55年ほど前、男性は友人と東京湾にモーターボートで釣りにでかけたとき、夢の島を囲む浅瀬に放置されていた第五福龍丸をみつけ、ボートを横づけして乗り込んでみた。

 このときは舵輪がついていることを確認しただけだったが、後日友人が再び第五福龍丸に乗り込み、舵輪を外して持ち帰り、男性が経営する喫茶店に飾られることになった。以来45年間、喫茶店にオブジェとして置かれ、店を閉めた後は別荘で保管していたが、その別荘も使わなくなったため舵輪をしかるべきところへ返そうと思い、展示館の存在を知り持ってきたという。

 第五福龍丸は被ばく後、国が買い上げ、56年に改造されて東京水産大の練習船「はやぶさ丸」として活躍後、67年に廃船となり、スクラップとして民間業者に払い下げられた。が、解体されず、当時ゴミの埋め立て地として知られた夢の島に捨てられた。その後、船が第五福龍丸だったことが分かり、保存運動がわき起こり、やがて展示館が建設されると、多くの人の目に触れるようになり現在にいたる。

 展示館の調べによると、この舵輪は細かい点でオリジナルとは異なる点があり、はやぶさ丸に改造されたときにつけられたと思われるが、展示館の安田和也主任学芸員は「福龍丸の舵輪と同じようにずっしりとした、直径120㌢ほどの舵輪には、船がたどった数奇な航海への想像力をかきたてられます」と話す。

(川井龍介)

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