「まさにデジャブ(既視感)ですね」
金融庁関係者がそう危惧するのは、地方銀行が販売に力を入れているという「EB債」(他社株転換可能債券)だ。日本証券業協会のウェブサイトによれば、〈EB債は、複雑な仕組みの金融商品〉。ある証券会社が販売するEB債の説明資料には、最低投資金額は100万円、利率は「年6%(税引前)」と書いてある。2020年の日付と同日時点の大手企業2銘柄の株価が載り、「同日から1年以内に両銘柄の株価が5%上回れば元本が現金で払い戻されるが、35%以上下落した場合はその株を時価で交付する形で償還する」などとある。なるほど複雑だ。
メガバンク幹部が言う。
「EB債の販売額はメガバンクや証券会社は横ばいなのに、地銀は20年度中、16年度の約2倍に膨れ上がりました。ここ数年の株価上昇局面の間、地銀はEB債の購入者に対し、償還後に他のEB債に乗り換えを勧める回転売買に力を入れてきました。その背景には、経営が厳しい中で手数料収入を増やさなければならない台所事情があるのでしょう」
前述の通り、対象銘柄の株価が大きく下落すると、その株式を交付することから、投資家の損失が膨らむ危うさがある。前出の金融庁関係者はこう話す。
「地銀は地元の個人や中小企業にEB債を販売するケースが多く、販売時にリスクについて十分な説明をしているのかが問われています」
実は10年ほど前、メガバンクや証券大手が中小企業を相手に「通貨オプション」というタイプの金融商品を積極的に販売したことがある。予想に反して円高が進行し、多大な損失を負う投資家が続出。国が「裁判外紛争解決手続き」(ADR)の紛争解決機関に指定する全国銀行協会などに金融機関とのトラブルを持ち込むケースが相次いだことがあった。
今は「地銀によるEB債の販売が同じことにつながるのではないか」と懸念されているわけだ。
(森岡英樹)