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2021年4月25日号
社会 神戸・摩耶山の鬱蒼とした緑の中 「廃墟の女王」が登録有形文化財に
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「廃墟の女王」と呼ばれる神戸市灘区の旧摩耶観光ホテルが今夏、国の登録有形文化財になる。文化審議会が3月19日、萩生田光一文部科学相に答申した。

 1930(昭和5)年、ケーブルカーを運行していた会社の保養所として摩耶山の中腹に建った。地上2階、地下2階の鉄筋コンクリート造で、当時最先端の「アールデコ」という建築意匠の幾何学的な装飾を施してある。

 その後、ホテルとなったが、第二次世界大戦中の空襲に遭う。61年に営業を再開するも、67年の豪雨で土石流が流れ込んで再び休業。最後は学生の合宿所として使われ、93年に閉鎖されてからは廃墟(はいきょ)になっていた。現在は地元の有志が主催する見学ツアーが唯一、近づける手段だ。もっとも、建物の中には入れない。

 鬱蒼(うっそう)とした緑に囲まれた建物はビル管理会社「日本サービス」(大阪府箕面市)が所有する。三宮正裕社長が言う。

「不法侵入者がガラスを割ったり火を使ったりして火事の危険があり、消防や警察から何度も改善を求められました。バリケードも破られ、防犯通報システムを入れました。建物はしっかりしており、美術展や音楽会などに活用してほしい」

 同社やNPO法人「J︱ヘリテージ」(神戸市兵庫区)などがインターネットで寄付を募り、劣化防止などに取り組む。同法人の松原永季氏は登録有形文化財になることで解体を免れることに安堵(あんど)している。

「耐震調査や屋上の防水など課題は多いのですが、中に入れるようにしたい。廃墟ゆえの魅力も登録の要因であり、朽ちた雰囲気も生かした観光資源になれば」

 最近は「廃墟ブーム」だという。長崎県の軍艦島など、今は荒れ果てた近代産業の担い手に魅力を感じる人が多いのだ。旧摩耶観光ホテルは女王格に躍り出そうだ。

(粟野仁雄)

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