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2021年2月14日号
東京五輪を中止すべき4つの理由
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倉重篤郎のニュース最前線

 日本と世界がコロナ禍に苦しむ今、菅政権は東京五輪を自らの政治的延命の道具にしつつある。「ニュース最前線」は、民の生活を踏みにじる政治を批判し、4つの理由から五輪の即時中止決定とコロナ対策への注力を主張する。

 コロナ下で東京五輪をどうするか。国民的議論をすべき時が来た、と思う。

 理由は二つだ。一つは、五輪が菅義偉政権の延命ツール化しつつある愚を排し、政治エネルギーをコロナ対策に集中させるためだ。

 二つ目は、この議論が日本の民主主義活性化の格好の教材になると思うからだ。

 そんな思いから、4人の政治家、経済学者、アスリート、哲学者の五輪中止論を聞いた。国民的議論のスタート台にしてほしい。

 ◇志位和夫・日本共産党委員長 ワクチン、フェアな大会、医療対応いずれも困難

 ◇「開催ありき」は竹槍でB29を落とすに等しい

 まずは、志位和夫日本共産党委員長だ。国会冒頭の代表質問で三つの論点から「夏の五輪は中止すべきだ」といち早く主張、永田町のタブーモードを打ち破った。

 質問への反響は?

「思っていたことを代弁してくれた、との声が多かった。(五輪への党のスタンスは)招致が決まったからには成功させよう、その際には簡素と民主主義が必要だ、としてきたが、危機をふまえ切り替えた」

「国民世論は8割以上が中止、再延期だ。めったにない、絶対多数ともいうべき数字だ。国民の多くはいま力を入れるべきはコロナ対策でしょうと思っている。アスリートとの関係、日本と世界のコロナ対策という角度からも結論の先延ばしは両方に大きな打撃を与える。政治が決断すべきギリギリの段階だと判断した」

 論点1はワクチンだ。

「ワクチンについては、1月11日、WHO(世界保健機関)主任科学者が『21年中に、(ワクチンによる)集団免疫を達成することはあり得ない。いくつかの国ではできるかもしれないが、世界全体の人が守られる水準になることはない』と述べた。米国オリンピック・パラリンピック委員会の医務部門責任者も『開幕までに接種が受けられるのは世界的にも一部だろう』との見解を語った。ワクチンを頼りに開催を展望することができないことは世界の共通認識になっている」

「私の質問に、菅首相自身が『ワクチンを前提としなくても安全安心な大会を開催できるようにしたい』と答弁した。従来はワクチン接種で状況が変わってくるという言い方をしていたが、『感染症対策を行うことで、ワクチンを前提としなくてもいい』と言い方を変えた。ワクチンが間に合わないと認めたわけだ」

 論点2がフェア性だ。

「感染状況は国によって相当の差がある。ニュージーランドや豪州など事実上抑え込んでいる国もあるが、依然として猛威を振るってコントロールできない国も多く、アスリートの練習環境に格差が生じている。ワクチン格差もある。WHOによると、約50カ国で接種が始まったが、国民所得が高い国に集中しているという。アスリートが強く願っているのはフェアな大会だと思う。それが保障される環境にない、と提起したが、これについては一切答えなかった」

 論点3は医療体制だ。

「五輪に必要とされる医療従事者は熱中症対策だけでも5000人とされている。これにPCR検査などコロナ対応が加わると、『2倍から3倍が必要だ』と言う。半年後、そんな多数の医療従事者をコロナと格闘する医療現場から引き離して五輪に振り向けることになるが、これはどう考えても現実性がない、と質(ただ)した。菅首相は『地域医療に支障を生じないよう準備を進めていく』と言うだけでまともな答えがなかった」

 三つともゼロ回答だ。

「いよいよ中止するしかないと思った。少なくとも『開催ありき』ではなくて、ゼロベースから開催の是非も含めて再検討する、内外の声を聞いて真剣な検討に入るべきだ。『コロナに打ち勝った証し』といくら精神論で唱え続けても、ワクチンが間に合わないと自分でも認めた。そうするとどうなるか。膨大な医療資源を投入して何とか感染を抑えるしかない。それも抑えられるかどうかわからない。『開催ありき』は、竹やりでB29を落とすようなことを強いるようなものだ」

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