サンデー毎日

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2020年12月13日号
大政局なるか!桜捜査 菅の安倍離れ 生対談 田原総一朗vs.佐高信
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倉重篤郎のニュース最前線 <桜捜査は菅の安倍離れか>

「桜」疑惑で秘書が聴取を受け、安倍前首相は窮地に追い込まれた。独裁化を強める菅政権はこの動きとどう関わっているのか。菅首相の指南役を務める田原総一朗氏と、政権を弾劾し続ける佐高信氏が徹底「闘論」、現在の権力構造の核心をあぶり出す―。

◇田原 菅氏に何をやらせるかが問題だ

◇佐高 陰湿な警察官僚「耳野郎」内閣だ

◇野党はアベノミクス批判ではなく対案を出せ

◇竹中氏は企業を繁栄させることしか考えていない

やはり「桜を見る会」が本命だった。安倍晋三前首相の第一秘書が東京地検特捜部の事情聴取を受けた。都内のホテルで開催した後援会主催の夕食会経費を安倍氏側が800万円以上負担した疑いがある、という。

これは、安倍氏が国会で「事務所側が補塡(ほてん)した事実はない」としてきた答弁と明らかに矛盾、公職選挙法(選挙区内寄付禁止)や政治資金規正法(記載義務)にも抵触する恐れが出てきた。事実だとすれば、安倍氏の国会での証人喚問、議員辞職は免れないだろう。

安倍氏の退陣、菅氏後継指名の背景には、一連の安倍疑惑封じがあるのではないか、と当欄でも指摘してきたが、問題はなぜこの時期に検察が動き始めたかだ。この問題については5月21日、全国の弁護士ら法律関係者662人(元最高裁判事も含む)が両法違反の疑いで検察に告発していた。捜査のポイントは、ホテル側の経費明細書と、1人5000円という参加費に参加人数を掛け合わせた後援会側の支払総額に差額(補塡)があるかどうか、という単純明快なものだった。

つまり、捜査当局がホテル側の明細書を確認すればいいだけであったが、それでも安倍政権下では手がつかなかった。安倍氏としてみれば菅指名により、退陣後も捜査当局への圧力をかけ続けたつもりだろうが、さすがに検察の政権への忖度(そんたく)にも限界があった。法曹界を挙げての告発を棚上げするわけにはいかないとの判断が働いたとみられる。

天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず。果たして事件が菅政権にどんな影響を与えるのか。歴代政権ウオッチャーで菅氏とも親しい田原総一朗氏と、希代の毒舌評論家・佐高信氏に菅政治評価を含め、激突対談してもらった。

――「桜」急転どうみる?

佐高 安倍氏が辞めたのは、自分の身辺に捜査が及んだからだと思う。第1次政権の退陣時も「『相続税3億円脱税』疑惑」報道(週刊現代07年9月29日号)との関連を取り沙汰された。今回も病気ではなくてそっちだと思う。先に辞めれば勝ちとばかり、検察との取引なしでも切り抜けられるとタカを括(くく)っていた節がある。ただ、検察は、黒川弘務元東京高検検事長の定年延長問題で人事介入された恨みに、安倍氏の4選論まで出て頭に来たのだろう。

田原 もう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)だ。実は、「桜」が安倍氏の最大の弱点だった。それは自民党要人も安倍周辺も認めていた。昔の自民党だったら誰かが安倍氏に諫言(かんげん)している。誰も何も言わずに自分もガンガン後援会を送り込んだ。今の自民党は腐っている、と言ったら、菅氏(当時官房長官)は「反論も弁解もできない。野党が弱すぎ、選挙制度のおかげで皆が安倍さんのイエスマンになった。どうしようもない」と認めるし、二階俊博幹事長も「その通り」と。今井尚哉(たかや)政務秘書官(当時)にも「チェックするのがあんたの担当だろう」と詰めたら「その通りだが、できなかった」と反省していた。

――なぜこの時期に捜査?

田原 もしかしたら、安倍氏を(捜査対象に)しようとしているのかな。

佐高 私はある一面だが韓国がうらやましい。李明博(イ・ミョンバク)でも朴槿恵(パク・クネ)でも前大統領を捕まえてしまう。日本では安倍氏が辞めるというだけで支持率が上がってしまう。何でそうなるのか。検察もそういった世論動向をにらんでいるのではないか。

――国会で首相が自らの不祥事で虚偽答弁し続けたとなると証人喚問されてもおかしくない。

田原 本人はすごく心配していると思う。

――菅氏はどう動いた?

田原 菅氏がやらせたとの説もあるが、そんなに菅、安倍関係は悪くない。

佐高 ただ、捜査を止めようとはしなかったのではないか。政権は安倍氏から禅譲された形だが、安倍氏が首相の専権事項である解散権に言及するなど目障りになってきたのではないか。総理になってしまえばね。

田原 菅氏の安倍離れの兆候を感じないでもなかった。経済司令塔を安倍時代の経産省主導から竹中平蔵氏(パソナ会長)軸の成長戦略会議に切り替えたし、安全保障政策では、退陣後の安倍氏を活用したらどうかとの進言に乗らなかった。

――菅氏にとってプラスマイナスは?

田原 プラスでしょう。今自民党では安倍の4選論が出ているからね。

佐高 私もプラスだと思う。縛りが取れていく。二階氏にだけ頼っていればいいという感じなのでは。ところで田原さん、学術会議の任命拒否問題。菅首相に撤回させる、と言っていたが、撤回しそうもない?

田原 10月4日、菅氏に会い、学術会議会長に会って向こうの言い分を聞けと進言(16日梶田隆章会長との会談が実現)した。その後二階氏と面談、もともと任命拒否は安倍人事を引き継いだだけ、この際は自民党主導で学術会議に再選考してもらい結果的に6人を復活させるのはどうだと。二階氏はいいアイデアだと言ってくれた。ただ、コロナの深刻化で、野党もマスコミも学術会議問題の批判をあまりしなくなった。二階氏がこの空気をどう読むか。

――田原さんの話は、安倍氏主犯、菅氏受け身説だ?

佐高 共同正犯でしょう。

――なぜ安倍氏は6人をそこまで嫌った? 安保法制に反対したから?

田原 当たり前だ。中国の台頭、米国の後退という新しい安全保障環境に対応するため、安倍氏が政治生命をかけてやった仕事だ。

――でも、6人の中で宇野重規(しげき)氏だけが2018年の補充人事、20年の本人事と2度拒否された。なぜか。宇野氏の実父・宇野重昭氏(17年死去)は安倍氏が学生時代の成蹊大法学部教授で法学部長、学長まで務めた方だが、青木理(おさむ)氏の『安倍三代』(朝日新聞出版、17年1月)で取材に応じて安保法制について批判、安倍氏についても「彼は憲法が何かもわかっていない気がします」「健全な保守を発見してもらいたいと思います。でなければ歴史に名を遺(のこ)すのではなくとんでもないことをしやった総理としてマイナスな名を残すことになる」と語っている。安倍私怨(しえん)説だ。

佐高 これは私のえげつない論法だが、菅さんは内閣官房参与に高橋洋一氏(嘉悦大教授)を任命したが、彼は過去に「窃盗容疑」で警察の取り調べを受け、東洋大を懲戒解雇されている(起訴猶予)。優れた業績のある6人の学者を理由も説明せずに学術会議会員に任命拒否した一方で、業績は別として窃盗容疑で懲戒解雇された人物を登用する菅さんの倫理基準を問うというやり方だって野党にはあるはずだ。

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