◇安倍政権の〝遺産〟と安全運転が奏功か コロナ対策間違えば一転急落の恐れ
12月5日までの会期の臨時国会も、残り1週間余りになった。盛り上がりを欠く論戦に、早くも内閣支持率低下かと思いきや、11月に入り少し持ち直した。果たして、なぜ世論は高支持率なのか。数字に潜む国民の声を専門家3氏が読み解く。
「朝日新聞の調査でも内閣支持率が上がった。一体、どこがどう評価されているのかねぇ」
11月17日、立憲民主党幹部の政策秘書はため息交じりに記者に問いかけた。
菅義偉内閣が9月16日に発足して2カ月。9月の発足後は読売新聞、日経新聞の74%を筆頭に、各社の世論調査で内閣支持率は60%台を記録。〝ご祝儀相場〟と言われながらも、好スタートを切った形だった。だが、10月に入ると軒並み6~7㌽下落となった。
ところが、11月になると持ち直した。15ページの表をご覧いただきたい。時事通信とJX通信の2社の世論調査で内閣支持率は下落したものの、他の大手メディアの調査では軒並み1~3ポイント増となった。
政権誕生から1カ月も経(た)たずに日本学術会議問題が明らかになった。同会議が推薦した新会員候補6人を任命しなかったことに対し「十分な説明がされていない」と、野党第1党の立憲民主党をはじめ、共産党、社民党は臨時国会で徹底追及するとし、早くも暗雲が垂れこめたかに見えた。
加えて、本誌11月8日号でも指摘した通り、自民党内でも「(菅首相は)ペーパーが無いと何もできない」と頭を抱えていた〝答弁〟だ。首相官邸でのぶら下がり会見もメモを読む姿は、定番と化している。
「自分の言葉で野党や国民に対して話せない人が、長々と首相の座に居られるわけがない」
数週間前、自民党OBはこう吐き捨てるように言った。だが、〝国民の声〟はどうやら違うようだ。このOBでさえも、改めて聞くと「どうして世論調査の数字がこうなるのか、全く分からない」と、お手上げポーズで嘆いて見せた。
ならば、この数字をどう読み解けばいいのか。専門家に聞くしかないだろう。
まず、実際に調査を実施しているJX通信社長の米重克洋氏に話を聞く。JX通信は、報道機関向けの速報サービスや世論調査を手がけるベンチャー企業だ。大手メディアは固定、携帯の電話による聞き取りが中心だが、JX通信は電話調査をし、選挙サイト・選挙ドットコムがインターネット調査を担い、合同発表している。最初に米重氏が注目したのは各社調査の「不支持率の一致」だと言う。
「世論調査は、質問の仕方、調査方式などで一定の幅が出ますが、高支持率の背景は期待値だと見ています。たとえば、読売新聞や日経新聞は、電話で『重ね聞き』をしています」
重ね聞きとは、質問で「菅政権を支持しますか?」と聞いた時、相手が「よく分からない」と答えた場合、「どちらかと言えば?」と聞き直すことだ。それによって〝消極的支持〟が増えるケースがあるという。しかし、不支持率は2割前後でほぼ一致している。これは期待値が含まれないからだと、米重氏は語る。
「世論調査など社会科学分野の用語で『社会的望ましさバイアス』があります。他人(社会)に好まれる回答をしがちな傾向のことで、重ね聞きには反映されやすい。一方、『不支持』という否定的な意見には反映されません。つまり、高支持率の背景には、菅政権への期待値の表れだと見て取れると言えます」(米重氏)
まだスタートして間もない菅政権に対し、批判よりも、まずは期待して見てみようという雰囲気が表れているのだという。
日本大法学部の岩井奉信教授(政治学)も期待感だと語る。
「長期間にわたり続いた安倍政権。その安倍政治を引き継ぐと宣言した菅首相は、安倍政権の遺産を引き継いだ格好です。安倍晋三前首相の支持者が支える一方、長期政権に飽きていた国民も乗っかった。その双方の期待感が継続している」