◇「学術会議人事は真理探究への介入だ」
10月25日、公称国内41万人、海外131万人の信者を持つ宗教団体・生長の家が、朝日新聞に意見広告を出した。菅政権による日本学術会議の会員候補の任命拒否に反対する内容だ。かつての自民党の有力支持団体の異議の理由は何か? 本誌の取材に谷口雅宣総裁(68)が独白した。
まず説明が必要だろう。現在、山梨県北杜市に本部を置く「生長の家」は1930年に創始者の谷口雅春氏が月刊誌『生長の家』を発刊したのを始まりとする。戦前、戦後と保守色が強く「明治憲法の復元」や「紀元節の復活」を訴えて政治運動に関与。元参院議員で労働相や参院自民党幹事長を務めた村上正邦氏(今年9月10日に死去)らを国会へ送り込み、自民党の有力支持組織とされた。
また、60年代後半には政治団体「生長の家学生会全国総連合」を結成。現在の日本会議事務総長の椛島(かばしま)有三氏らを輩出した。改憲を主張する日本会議は安倍晋三前首相と関係が深く、生長の家も保守政治の牙城のように見られてきた。
だからこそ、安倍政権の継承を掲げる菅義偉首相の政策に対する異議は、一部で驚きをもって受け止められた。真意を聞くべく11月中旬、本誌は雅春氏の孫で3代目総裁の雅宣氏に単独インタビューした。
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今年9月、任期を1年余り残して安倍晋三首相が退陣しました。7年9カ月という歴代最長の在任期間は驚くばかりですが、生長の家としましては2016年の参議院選挙の際に「与党とその候補者を支持しない」という声明を発表し、態度を明らかにしました。
主な理由は、安倍さんが集団的自衛権を巡る法解釈の勝手な塗り替えを行ったからです。そして、11もの法案を通してしまったことに対し「このままではいけない」と強く考えたのです。
そこで、生長の家としては安倍さんが率いる自民党を支持しないことを表明し、その自民党と同盟を結んでいた公明党もまた支持しないことにしました。
新たに就任した菅義偉首相は「安倍政治を継承する」と明確におっしゃっています。これは日本の将来にとって非常に好ましくないことですから、新政権発足当時から菅首相には何も期待していませんでした。
ところが、「継承する、とはどういうことか」と思っていたところ、今回の日本学術会議の任命拒否問題が明らかになりました。安倍さんの時と同じやり方を、同じ方法で行うのかとの疑念がすぐに湧いてきました。そして、菅首相は、安倍政治の後追いをしていることがはっきりと分かりました。それで今回の意見表明に至った次第です。
私たちの信仰は、立憲主義の基礎であると言っています。自民党は立憲主義を重んじないことが明確になっているので、その自民党には早く代わってほしい。立憲主義を党名に掲げている政党を支持する、とは言っていません。しかし、彼らの足腰がもっと強くなって、早く日本の政治を担ってくれたらいいという淡い期待は持っています。
古い時代の話をします。
そもそも法律とか政治とか学問というものの嚆矢(こうし)を考えてみますと、それはギリシャ時代であるとか、日本でいうと飛鳥時代になりますが、そういう時代は支配者が実権をすべて掌握していました。宗教的な儀礼、学問の修得、人の支配、税金の徴収、奴隷の使用など、単純化すれば支配層と被支配層があり、各分野において支配層が、それらを独占する構図です。
近代民主主義はこれを全部バラバラにして、それぞれが秩序を持ってやることにしたのです。政治の運営は三権分立という形になっているし、宗教や学問の世界は独自の自治を行う形で発展してきました。その学問の分野に政治が横車を押すのは、明らかに時代に逆行していると思います。