猛暑の夏場は「解散風」が吹いていた。10月25日は大安の日曜日で「解散・総選挙の投開票日か」とも言われた。だが、解散風はぱったりとやんだ。それどころか、自民党内から漏れ伝わってくる。菅義偉首相は「解散権を行使できない」のだと。どういうことか。
「なぜ就任早々、解散に打って出なかったのか。今でも不思議でしようがない」
第2次安倍晋三政権で閣僚を経験した自民党の中堅衆院議員は、こう言って首をかしげる。
9月16日、菅政権が発足した。そして、現衆院議員の任期は2021年10月21日までで、残り1年を切った。永田町の注目は、いつ菅首相が衆院の解散・総選挙に打って出るかだ。
首相就任直後に行われた各世論調査で内閣支持率は軒並み高かった。9月16、17日に実施した共同通信の調査では支持が66・4%、毎日新聞(同17日実施)は64%、同19〜20日に行った読売新聞にいたっては歴代3位の74%となった。
自民党内からは「千載一遇のチャンス。〝ご祝儀相場〟が冷えこまないうちに、すぐさま解散すればいい」との声が聞こえてきた。現有議席284を維持するのは厳しいと見られる中、この支持率を背景に戦えば「15〜20議席減程度で済む」(自民党関係者)との見方が出てきたからだ。
にもかかわらず、菅首相はデジタル庁の創設や携帯電話料金値下げ、縦割り行政の打破、不妊治療への保険適用などを矢継ぎ早に打ち出し、〝菅カラー〟での実績優先の道を選んだ。菅首相に近い自民党衆院議員は、「菅首相は浮かれた数字に惑わされるような人ではない。〝仕事師〟としてやるべきことをやってから堂々と解散するだろう」と胸を張った。
そして、10月2日。菅首相は連立パートナーである公明党の山口那津男代表と首相官邸で会談し、早期解散に慎重な考えを示した。新型コロナウイルス対策が優先と明言し、「年内の解散は見送りとなった」(自民党関係者)。「秋解散」には終止符が打たれた。
ただ、首相就任わずか1カ月で政権に暗雲が立ちこめている。まず、内閣支持率が急落したのだ。
10月9〜11日にNHKが行った世論調査では、支持が前回から7㌽減の55%。朝日新聞の同17、18日の調査では同12㌽減の53%となった。70%超えだった読売新聞でも、9月から7ポイント減の67%だった。
下落の最大の理由は、科学者の代表機関・日本学術会議が推薦した新会員候補6人を任命しなかった問題に対し、十分な説明をしていないことだろう。
「菅首相は、記者を敵のように思っているようだ」
こう語るのは官邸関係者だ。この言葉を裏付けるかのように菅首相は〝メディア規制〟に乗り出している。政権発足から約半月後の10月3日朝、菅首相は内閣記者会の記者たちと「パンケーキ懇談会」に臨んだ。下戸の菅首相の好物はパンケーキとされているのは周知の通り。しかし、問題視されたのは完全オフレコ、懇談内容を外に漏らさないことが条件だった点だ。政治ジャーナリストの安積明子氏は、こう語る。
「特定の記者だけに話すという姿勢がトップとして問題。加えて、パンケーキで話題を集めようというのは、あまりにもセンスが無い」
大規模買収事件で現在公判中の河井案里被告が、昨年の参院選に出馬した際、菅氏は広島へ応援に駆けつけ、ともにパンケーキで休憩した。案里被告は当時、SNSにその様子をアップし、アピールに余念がなかった。そんな験(げん)の悪いパンケーキに手を伸ばすセンスを、安積氏は嗤(わら)うのだ。