サンデー毎日

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2020年11月 1日号
政治指南役・田原総一朗の同時代証言「学術会議人事は撤回しかあり得ない」
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「ポスト安倍は2年前から菅氏に決まっていた」

「これは菅・二階の両輪政権だ」

学術会議人事介入問題には菅政権に欠けた部分が現れているのではないか。権力行使への抑制の欠如、戦争への反省から生まれた学術組織への敬意の欠如だ。政権のご意見番・田原総一朗氏は今回の事態をどう見るのだろうか? 菅政権成立に関する驚くべき事実とあわせて、「ニュース最前線」倉重篤郎が聞く―。

菅義偉首相の日本学術会議人事介入問題の背景に我々は何を見るべきか?

菅氏が日本国首相としてふさわしいかどうかにまで関わる二つの資質問題が隠されているのではないか。

一つは、行政の最高責任者として人事権を行使するうえでの品格と説明能力である。政府機関トップの首を挿(す)げ替えることで、過去の自民党政権がしてこなかった政策変更に踏み込んだというのが、第2次安倍晋三政権の特徴であった。日銀総裁では、異次元金融緩和を、内閣法制局長官では、集団的自衛権行使容認を、そして、その政権末期には検事総長というポストに「政権の守護神」と呼ばれる人物を据えようとした。

政権からすれば、日銀と法制局では見事に成功、検察は不祥事発覚であと一歩のところであった。このある意味での成功体験が菅氏の政治手法を決定付けたように私には見える。役人は人事ですべて言うことを聞く。官房長官として7年8カ月、人事に脆(もろ)い官僚たちを自在に威嚇、籠絡(ろうらく)し、有数のシンクタンクと言われた霞が関を恐怖と忖度(そんたく)の支配下に置いてきた。

もちろん私も政治主導の人事に反対するものではない。ただ、過ぎたるは及ばざるが如(ごと)し。菅氏と杉田和博官房副長官コンビにはどこか人事権行使に淫(いん)した、権力者としてその快感に惑溺した印象がある。権力の行使には、人事権といえどもそれなりの抑制的姿勢と品格が必要だ。例えば「守護神」人事は明らかにやり過ぎだった。6人が任命拒否された今回の学術会議会員人事も、拒否理由が6人の反政府的言動しか想定できない点であまりにも露骨であり、了見が狭い。

説明能力も発揮されていない。10月9日に行われた菅首相へのグループ・インタビューの起こし全文に目を通してみたが、任命拒否の理由は「総合的・俯瞰的な視野」を壊れたレコードのように繰り返すのみだった。この国会答弁では、野党にも国民にも通用すまい。

安倍氏が決めた人事を変更できず

もう一つは、菅氏の歴史認識の問題だ。あの戦争をどう総括するか。学術会議がそもそも科学者の戦争協力への反省から創設され、その後も軍事研究への慎重論が伝統となっている組織であることへのリスペクト(顧慮)が伝わってこない。

それは菅氏の沖縄の新基地問題への対応とつながるものがある。歴代自民党政権は、沖縄が戦中戦後一貫して日本の安全保障の犠牲になってきたとの贖罪(しょくざい)観から、沖縄に対しては特別な思いをもって対応してきた。菅氏が尊敬する梶山静六氏もその1人だった。だが、こと菅氏に関する限り、そういった歴史への配慮は寸毫(すんごう)も感じられない。粛々と埋め立てを進め、反対運動を取り締まる、という土建、治安感覚があるのみだ。

あの無謀で悲惨な戦争を体験した国の首相である限り、その歴史的背景、経過への洞察と、不戦、非戦への意思は必須の資質であると思うが、いかがだろう。

さて、ここで田原総一朗氏に登場願う。政局の節目に行っている田原氏の「同時代証言」だ。私が知る限り、田原氏は1年前から菅首相を言い当てていた唯一のジャーナリストである。菅氏への評価も高い。私とは立場が違うが、86歳という年を感じさせない行動力、取材力に支えられた田原流政局史観は聞き応えがある。まずは学術会議人事だ。

菅氏に何と助言した?

「(10月4日に)菅首相と面談した際、こう言った。『国民は今回の学術会議人事に疑問を持っている。デモクラシーとは話しあうことだ。ぜひとも学術会議会長と会った上で、国民が納得するような説明をするべきだ』とね。首相はわかったと言っていた」

「10月3日には、加藤勝信官房長官とも電話で話した。『この人事で菅氏から相談を受けたか』には『相談はない。(6人は任命しないという)命令だった』。『(首相を補佐する官房長官として)なぜ問題がある、と言えなかったのか』には『官房長官(という立場)では言えません』とのことだった。情けないが、これが実態だろう」

「僕の想像では、この人事は安倍氏が決めたのではないか。自分が日米同盟維持のために命がけで取り組んだ秘密保護法、安保法、共謀罪にことごとく反対されたからだ。菅氏は安倍氏が決めたことをキャンセルできなかった。こんな大問題になるとは思わなかった。安倍氏も読みが悪かった」

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