倉重篤郎のニュース最前線
菅政権は、市場原理、規制緩和を中軸とする新自由主義を推進しようとしており、かつての小泉政権のミニチュアとも言える。当の小泉純一郎元首相は、菅政権をどう捉えているのだろうか。「菅さんの首相就任は予想もしていなかった」と語る小泉氏は、新政権に「原発ゼロ」を要求した――。
アベノミクスの後始末は重要
新聞各紙の中面に「首相動静」という小欄(毎日新聞は「首相日々」)がある。首相が前日に誰といつ会ったか、どこに行ったか、その1日の動静をきめ細かく追っかけた記事である。
スペースは小さいが、政治面では最もカロリーの高い記事である。新聞、テレビ各社が番記者を1人ずつ終日この仕事につけている、という人件費的観点からもそうであり、かつ、日本の最高権力者が誰と会っているのか、というある意味国家的機密を詳(つまび)らかにする、世界のメディアでも他に例のない欄であるからだ。
永田町の政治家も官僚も記者も皆この欄の愛読者である。首相が誰と会うかは、首相の頭の中身、腹の底、置かれた状態を推測する上で極めて有効な材料になる。安倍晋三前首相の健康異変を最初に示唆したのは、7月6日組みのこの欄で、安倍氏の動静に5時間の空白(誰にも会わない時間帯)が生じた時であった。
安倍末期は、各省の役人の名前がアリバイ的にズラリと載ることが多かったが、菅義偉新首相になってこの欄がまた注目され始めた。というのも、菅氏が官房長官時代から助言役として面談、会食していた面々の顔ぶれが、首相として動静が公表されるようになったため、すべて可視化されたからだ。前号で取り上げた竹中平蔵氏然(しか)り。村井純、高橋洋一、財部(たからべ)誠一、熊谷亮丸(みつまる)、金丸恭文、新浪剛史(にいなみたけし)、デービッド・アトキンソンら各氏、学者、経済アナリスト、経済人たちである。
まさに菅氏の頭の中身が透視できるような面々だ。縦割り排除、デジタル庁、スマホ料金値下げ、リフレ政策、農協改革、観光といったテーマが浮かんでくる。
このことからわかることの一つは、菅政権とは、歴代政権の中では、中曽根康弘、小泉純一郎政権の系譜に属す新自由主義、市場志向的、規制緩和・民間活力導入型政権であることだ。中曽根氏の国鉄民営化、小泉氏の郵政民営化に比べるとスケールが小さくテーマが部分的ではあるが、竹中氏の影響力から見てもミニ小泉政権と見てもいい。
と思ううちに、小泉氏に会いたくなった。安倍政治の終焉(しゅうえん)をどう見たか。亜流政権誕生をどう評価するのか。同時にもう一つの重要テーマも聞いておきたい。
それは原発エネルギー政策である。菅政権誕生の当日、日立が英国への原発輸出完全撤退を発表した。安倍政権下で進められた原発輸出はすべて行き詰まることになった。日本国内でも再稼働は9基にとどまり、メーカー3社の原子力関連の人員はすでに1割減という。世界を見ても明らかに原発は退潮、自然エネルギーへの転換が進んでいる。かつて小泉氏は「首相が決断すれば可能」として安倍氏に原発ゼロへの転換を勧告したが、原発推進役の経産省を足場にした安倍政権は耳を貸さなかった。政権交代というのは、常に政策変更の好機でもある。この政局に小泉氏のメッセージが欲しい。以下聞いてみた。
安倍退陣をどう見た?
「自宅でテレビを見ていて、NHKのテロップで知った。突然の話、何でだ、と思ったが、退任会見を聞き、病院で6時間も治療がかかったのはこれかと思った。普通の健康診断ではありえない。何か悪いのかなという予感はしていた」
やはり、と?
「ではない。意外だった。残り任期があと1年だから、そこまではやるだろうと思っていた。ただ、体調が悪くなると気力も落ちる。人間はそういうものだ。気力がなくなったんだな。首相は疲れる。僕の場合体調は大丈夫だった。何より大事なのは食事と休養だ」