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2020年9月27日号
森功の伏魔殿リポート・それでも官邸官僚は生き残る 菅政権にも巣くい続ける側用人たち
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◆官邸から放出も「安倍の分身」今井尚哉

◆政策の中核へ「菅の忠臣」和泉洋人

安倍政権の継承を掲げる菅政権が発足する。歴代最長政権は安倍晋三首相の側近、官邸官僚による「側用人政治」の弊害が指摘された。官邸官僚の実態をえぐった著書もあるノンフィクション作家が、主が代わる「伏魔殿」で、彼らはどううごめいたのかを伝える。

安倍晋三政権の「居抜き内閣」――。新たな政権の顔ぶれが決まれば、そうなるだろうと予測がつく。9・14自民党総裁選の結果を待つまでもなく、8月の首相辞任発表前からすでに菅義偉への政権禅譲が決まっていた。「安倍政権を継続する」といえば聞こえはいいが、とどのつまり、ナンバー2が政権をそっくりそのまま乗っ取ったにすぎない。

もっとも、それはコロナの失政に疲れ果て、政権運営にやる気をなくしていた首相の意思でもある。

「もう菅ちゃんに任せたい」

辞任発表から雪崩をうったかのように伝えられる菅新首相への流れは、首相の示したそのレールに自民党の重鎮たちが乗っかっただけだ。「居抜き内閣」とはそういう意味である。病気のせいという同情論にかき消されているが、その実、第1次政権と同じように政権を投げ出した事実に変わりはない。

したがって新内閣の基本構造は変わらない。注目される閣僚人事は官房長官と財務相ポストくらいで、他はさほど代わり映えしない。なによりこれまで安倍政権を支えてきたのが、政治家ではなく、官邸官僚たちだから、そうなるのも必然なのであろう。

この7年8カ月、内閣は政治主導による政権運営を声高に叫んできた。それは安倍1強による官邸主導とも呼ばれた。首相の強力なリーダーシップの下、官邸が物事を決めていく。だが、実態は米ホワイトハウスの政治イニシアチブとは大きく異なる。実際に政策を決定してきたのは首相や大臣ではなく、官邸にいる取り巻き官僚たちだ。彼らは霞が関にいる役人ではないが、形を変えた官僚支配、つまり官邸官僚主導である。

そして政治主導という大義の裏で、官邸官僚が新たな〝苦労人〟宰相に政策を授け、前と変わらず「やっている感」を醸し出す。それが菅居抜き内閣の基本姿勢となるのだろう。

ただし、主(あるじ)が交代した分、政権を支える側近の顔ぶれには多少の変化がありそうだ。とくに注目されるのが、安倍政権時代に「総理の分身」と異名をとってきた今井尚哉(たかや)首相補佐官兼政務秘書官だ。ここへ来て、その立場が危うくなっているという。ある官邸関係者は耳元でこう囁(ささや)く。

「今井さんは新政権誕生に向け、総理の意向を酌んで菅官房長官への禅譲シナリオを書いた張本人の一人だと目されています。その張本人が下手をすれば、官邸から放り出されるかもしれません。それどころか、官邸に残ることができても、肩書はせいぜい参与くらいではないか、と言われ始めました」

参与は会社組織にたとえると、顧問のような内閣のアドバイザーだ。安倍から菅への政権禅譲の裏で、官邸官僚たちはどう動き、これからどうなるのだろうか。

安倍政権におけるこれまでの官邸官僚には、大きく三つのグループが存在してきた。今井の率いた経済産業省出身者の首相側近グループ、首相補佐官の和泉洋人を中心とした菅官房長官の忠臣グループ、官房副長官の杉田和博や国家安全保障局長ら危機管理や安全保障を担う警察官僚グループだ。安倍政権ではこの3グループのうち、必然的に最も首相に近い今井たち経産官僚グループが、大きな権勢を振るってきた。アベノミクスに象徴される経済政策を担い、官邸内で一大勢力を築いてきたといえる。

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