サンデー毎日

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2020年6月14日号
次期首相候補No.1 石破茂が安倍政治に本気の「否」(NO!)
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倉重篤郎のニュース最前線

◇検察問題、コロナ対応...「もういい加減にしてくれ!」

検察庁法改正問題と黒川醜聞で、安倍政権への国民の怒りと不信はさらに強まった。自民党内ではいまだに政権を忖度する沈黙が支配しているが、自前の言葉で民主主義の再生を説き続ける石破茂氏の存在感が増している。注目の次期首相候補ナンバーワンが、危機的局面の変革に向けて、存念を語り尽くした。

もういい加減にしてほしい。安倍晋三政権の検察官定年延長をめぐる一連の騒動に素朴な怒りを感じておられる方が多いであろう。

そもそも何のための定年延長だったのか。1月31日のことである。2月8日に63歳となり検察庁法の規定で退職せざるを得なかった黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年を半年間特例延長する、との閣議決定が行われた。「余人をもって代えがたい」がその理由だった。黒川氏を検事総長にするための布石だったのは明らかだが、この政権としては珍しいドタバタ駆け込み人事となった。周辺も驚いた。退職後の法律事務所も内定し、送別会さえ用意されていた、という。

背景には、黒川氏評価をめぐる政権中枢と検察・法務当局の見えざる暗闘があった。政権側からすると、黒川氏は法務省官房長、事務次官として7年間政権を支え、共謀罪(組織的犯罪処罰法)や外国人労働者受け入れ制度創設など重要法案、政策の実現に貢献、その間政権が抱え込んだ数々の不祥事(閣僚スキャンダル、森友・「桜を見る会」疑惑)を政権側の打撃にならないよう巧みに着地させてきた。

その功労に最高ポストで応えるのは、内閣人事局を使って霞が関人事を壟断(ろうだん)してきた政権にとってなさねばならぬ美学であった。憲政史上最長政権として政権最終盤までその効能、加護を維持したい、と考えるのもまた当然だった。東京、広島地検が合同捜査中の河井案里参院議員陣営の公選法違反事件では、捜査の進展によっては自民党本部から振り込まれた1・5億円の選挙資金が政権中枢の指揮系統と絡んでくる懸念もあり、どうしても黒川検察の継続が必要だった。

一方で、検察・法務当局側は、黒川氏の実力、安倍政権への食い込みは認めながらも、黒川氏と司法修習同期の林眞琴氏(5月26日付で黒川氏の後任の東京高検検事長)を検事総長とする人事構想で一貫していた。安倍政権下で両者の対立は2016年9月の法務事務次官人事で顕在化、林氏を押す検察・法務当局に対し政権中枢側が腕力で黒川氏を押し込んだ。19年秋には、次期検事総長ポストをめぐり同じ構図の対立が再燃、今回もまた政権側が押し切った、ように見えた。少なくとも政権側は稲田伸夫検事総長が自らの勇退と黒川氏の後継昇格を了承した、と受け止めた。だが、稲田氏の20年4月の国際会議を花道にするとの意向との間で勇退時期を詰め切れず、急きょ禁じ手の定年延長カードを切った、というのが真相に近い。

その後の展開はご承知の通りである。苦し紛れの安倍氏の「法解釈変更」の答弁があり、それを後付け、上書きするための検察庁法改正案の国家公務員法改正案への束ね提出があった。ここで政権は2度目のドジを踏む。改正案に役職定年後の検察官を時の政権の恣意(しい)で役職延長できる特例措置を入れ込んだのである。過去の失策(駆け込み定年延長)正当化への思いが勝り、恣意的人事介入の〝制度化〟というさらなる深みにはまってしまったのである。

強気に出れば何とかなる、という政権の慢心が今回ばかりは世論に阻まれた。しかも「余人」ならぬ「その人」が賭け麻雀(マージャン)で自爆する、という屈辱の幕引きだ。政権末期現象もここまで至った感がある。

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