隅田靖監督の「子どもたちをよろしく」は中学生のいじめ問題に焦点をあてた映画だ。企画したのは文部官僚だった寺脇研と前川喜平で、いずれも現在の教育行政に批判的な2人である。そんな彼らが映画で何を問題にしたかったのか――。
映画は、ある地方都市を舞台に、いじめる・いじめられる関係が二つの家庭を中心に描かれている。いじめる側の稔は一軒家で、酒びたりの父とその父におどおどしている義母が暮らす。彼女には連れ子(姉)がいて、家庭は複雑だ。
いじめられる側の洋一の家庭はアパート暮らし。父はトラック運転手と称しているが本当はデリヘル嬢の送迎運転手で、待機時間をパチンコに費やし、ギャンブル依存症になっている。母はそんな父に嫌気がさして消息不明に。洋一は即席ラーメンばかり食べ、風呂に入ったこともなく、同級生たちから学校の行き帰りに「臭い」といじめられる。
稔は初め、みんなにしぶしぶ付き合っていたが、姉がデリヘルの仕事をし、その送迎を洋一の父がしていると知り、怒りを洋一にぶつけはじめる。
いずれの家庭も少しずつ壊れていくさまが描かれる。最初は少しやりすぎじゃないか、とみていたが、そのうちこんなことが自分の家庭にもあったとハッとする。娘が中学のとき同級生たちのいじめに遭っていた。片親だったことがきっかけで、カネをせびられた。母親たちを呼び、金銭要求の紙切れをみせてようやく事態を収束させることができた。
そのときのいじめの背景に「健全な両親」の存在が求められていると知った。
昨今、いじめや幼児虐待で子どもを死に至らしめる事件がメディアをにぎわせている。それらを目にするにつれ、なんとかできないものかとやりきれない気分になる。
映画では、いじめが子どもだけの問題でなく、社会や親のあり方と深く関わっていると訴えている。
(木下昌明)