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2020年2月16日号
NEWSNAVI 社会 「洲本事件」高裁で破棄され無期 死刑とした裁判員裁判の意義は
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またしても裁判員裁判の死刑判決が無期に。2015年に兵庫県洲本市(淡路島)で5人を殺害した平野達彦被告(45)に対し、大阪高裁(村山浩昭裁判長)は1月27日、神戸地裁が裁判員裁判で死刑とした判決を破棄し、無期懲役とした。

裁判員裁判の「1審死刑」が高裁で覆ったのは、6人が殺された埼玉県熊谷市の強盗殺人事件(15年)、2人が犠牲になった大阪・心斎橋の通り魔事件(12年)など7件目。

平野被告は、自宅近くの2軒の民家を襲撃し、家族らを次々に刃物で殺害した。被告は向精神薬を服用しており、「(2家族が)電磁波兵器で攻撃してくる」などと供述。犯行時の責任能力が争点だった。1審では「犯行時に病気の影響はほとんどない」とされ死刑となった。

しかし、村山裁判長は「犯行時、妄想の影響を強く受けていた」とした2審の別の鑑定を重視し、心神耗弱状態を認め、無期懲役とした。

殺害された平野浩之さん(当時62歳)の遺族は「失望した。裁判員裁判の趣旨を台無しにするもの」と怒り、平野毅さん(当時82歳)の遺族は「裁判員らの評議を覆し、5人もの命を奪った被告を死刑にしないのは非常識」と検察に上告を求めた。

甲南大の園田寿(ひさし)教授(刑法)は「遺族感情は理解できる」としたうえで、「病気なのか、生来の人格なのか、など精神鑑定は極めて専門的で難しい。判断を裁判員に委ねるには無理がある」と指摘する。こうした重大犯罪は精神鑑定が論点になることが多いが、裁判員裁判では裁判員のため法廷での鑑定書は極めて簡略化されて示される。

それでもこの裁判、1審判決後に会見した裁判員は「よくわからんけど死刑に投じた」と吐露している。制度が導入されてから11年になる裁判員裁判の見直しが必要ではないか。

(粟野仁雄)

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