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2020年2月 9日号
社会 阪神大震災「奇跡のバス」運転手 当時の乗客と縁「話すとほっと」
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社会 阪神大震災「奇跡のバス」運転手 当時の乗客と縁「話すとほっと」

阪神大震災で印象に残る光景の一つが、切断された阪神高速道路から落下しかけた大型バスだろう。運転していた福本良夫さん(78)=京都市=を久しぶりに訪ねた。

帝産観光バス(本社・東京)が、スキー客向けに長野県から神戸市三宮へ走らせる車両の運転手だった。兵庫県西宮市内を走行中の1995年1月17日午前5時46分。「空が黄色く光ったと思うと激しく横に揺れ出した。必死にハンドル操作してたら今度は縦揺れ。洗濯板の上を走ってるみたいに跳びはねた。ブレーキを踏んだが前輪がガタンと落ちた。『うわっ、お陀仏(だぶつ)や』と観念したら止まりました」

大阪で大半の客が降り車体が軽かったのが幸いした。「対向する車がスーッと落ちていった」。乗客の若い女性3人を率いて階段で下に下り、公衆電話で会社に連絡すると「車検証持ってきてください」。何と運転席に引き返した。「余震で揺れてましたが怖いとは思わなかった」。電話の相手はテレビを見て青ざめたという。「コンビニでインスタントカメラを買い、下から撮影した時、初めてぞっとした」

自宅へ戻るも、仰天する妻を尻目に新年会に出かけた。だがその後、取材が殺到、東京のテレビ局にも呼ばれた。「嫌やったけど会社に『宣伝になるから出演してくれ』と頼まれましたね」。受験シーズン期で「絶対落ちない」とも絡められる。会社には「あの運転手さんでお願いします」の注文が相次ぐ。「妻は取り次ぎでノイローゼになりかけた」

震災から25年の今も客の一人とたまに会う。「あの時を振り返るでもなく、たわいない話しかしないけどなんか心が和みます」。定年後、名門龍谷大付属平安高校の野球部の運転手をしていたが2年前に足を骨折して引退。「バスの運転は大好きですよ。怪我(けが)しなかったら続けとったのに」とちょっと悔しそうだった。

(粟野仁雄)

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