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2020年2月 2日号
刑務所舞台に人間性回復に主眼 受刑者の対話から目が離せない
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日本にもこんな刑務所があるのか――坂上香監督の「プリズン・サークル」をみて思いを新たにした。「島根あさひ社会復帰促進センター」という男子刑務所が舞台で、2008年に官民共同で開設され、受刑者の独り歩きも私語も許される。

これまで刑務所といえば、犯罪者を厳しく罰する所というイメージが強かった。ここでは人間性の回復をめざすことに主眼がおかれている。受刑者が数人から数十人、輪になって腰かけ、それぞれが自らの犯罪を告白し、互いにその原因を探り、どう対処したらいいか語り合うという対話を基本にした教育システムだ。

その場には民間の若い女性支援員も参加して、何か楽しい教育の雰囲気をかもしている。映画は刑務所の全景も映しているが、ほとんどは所内での受刑者の対話に終始している。それだけなのに目が離せない。

このドキュメンタリーは、隔離された所内の新しい試みを広く知らしめようと、坂上が6年の歳月をかけて所長らを説得し、2年の歳月をかけて撮影したもの。そのなかで20代の4人の青年を選び、彼らの内面の変化に迫っている。

4人の犯罪は、オレオレ詐欺や窃盗や傷害致死など。ニュースは事件の上っ皮しか伝えないが、ここではその内実がわかって目を見張る。

例えば、カネに困って親しい叔父の家に押し入り「殺そう」とまでした事件。「なんで」と何度も問いかけたくなる。また、加害者なのに自分を被害者のようにみたてたり、被害者のことに少しも思いいたらなかったり。まるで深い穴をのぞいている気分になる。人間内部の不可解さがわかる。

こういう共同体の訓練をみていると、かつて中国の戦犯収容所で行われていた認罪運動を想起する。元日本兵らが互いの記憶をたぐりよせて自らの戦争犯罪を掘り起こし、人間として目覚める――。

この映画でも、同じような試みがなされようとしている。必見。(木下昌明)

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