サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2026年6月14日号
高市さんの応援団は"究極の政治テーマ"「国力」を安売りする
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牧太郎の青い空白い雲/1028

 江戸時代、「国力」という言葉は(一部の人の間に限られたが)使われていた。この頃、「国力」とは「コメの生産高」。つまり「石高(こくだか)」だった。 

 徳川将軍家の「国力」は約700万石。約3100万石と言われた全国の総石高の「4分の1」近くを獲得していた。主要な金山・銀山(「佐渡金山」など)や大坂・京都など重要都市を直轄支配したから当然だが......。この「石高」から軍事動員兵力を計算すると、「1万石につき侍250人」という説もあるが ......。ともかく、徳川家の「国力」は並ではなかった。

 もちろん、他に〝豊かな国力〟を持つ藩もあった。加賀藩(前田家)は加賀、能登、越中(現在の石川県・富山県)の三つの国を支配して102万5000石。前田家は外様大名だが、将軍家との姻戚関係を大事にして、松平姓と葵(あおい)紋を使うことさえできた。

「国力」は時々の人間関係と深く関係する。

 明治になり「国力」は「コメの生産高」から「富国強兵」「殖産興業」に。1873年、明治政府は徴兵令を布告。国民皆兵の近代的な軍隊(陸海軍)を創った。「殖産興業」では、富岡製糸場などに代表される官営工場を設立し機械制工業を導入。鉄道の敷設や電信網の整備、海運業の育成......。政府は「国力増強」に夢中だった。

 終戦後、つまり昭和中期から平成、令和......。「国力」という言葉は〝死語〟になったように思った。

 それが......。今年5月、自民党内に突然「国力研究会」なるものが発足した。外相・茂木敏充、副総裁・麻生太郎、政調会長・小林鷹之、幹事長代行・萩生田光一、防衛相の小泉進次郎などの「大物」はもちろん、「小物」も揃(そろ)って参加した。その数、350人近く。自民党国会議員の8割以上だ。「国力を研究する!」という〝看板〟を掲げるが......。「国力とは何ぞや?」は学問的にも、政治・経済的にも簡単に〝答え〟が出ない「究極のテーマ」だろう。

 例えば第二次世界大戦後、最もよく知られた社会学者・タルコット・パーソンズは「政治において正当化された一般的交換機能を発揮するもの」と話す。ちょっと難しい。アメリカ政治学界の長老・ロバート・ダールは「Aの働きがなければ、Bは行わなかったであろうということを、Bに言わせる限りにおいては、AはBに対して力を持つ」と定義した。さらに難しい(笑)。 

 ある議員さんに「研究会のネーミング」の意味を聞いたら、「高市さんを応援すれば国力が上がる!ということでしょう」。分かりやすいが、これじゃ「国力の安売り」じゃないか(笑)。はっきり言えば、そんな会に出る暇があるなら、選挙区の工務店、自動車工場、パン・菓子工場を訪問して調査しろよ!「国力」より「ナフサ不足という国難」がやって来るんだから。..................................................................................................................... 

◇まき・たろう 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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