サンデー毎日

政治・社会
イチオシ
2020年1月26日号
もう、黙っていられない! 「嫌韓」をどう克服するか 排外主義と歴史の教訓 在日コリアンとの「対話」から
loading...

偏ったナショナリズムが日韓関係をさらに歪め、韓国やコリアンに対するヘイトがメディアでも社会でも増幅される時代。私たちは「嫌韓」潮流にどう抗い、異質な存在が自由に出会う社会をつくれるのか。闘うジャーナリストが、2人の在日コリアンと対話し、日韓の歴史の暗がりから未来を透視する―。

昨年は日韓関係が国交正常化以来で最悪の年になった――そんな文句が新年も連日メディアに躍る。それでも年末には約1年3カ月ぶりの日韓首脳会談が中国の成都で行われ、両首脳が日韓関係の重要性への認識を共有し、少なくとも対話の継続では合意したと伝えられた。これで両国関係も改善の方向へと進んでほしい――そう心から願ってはみても、近所の書店を覗(のぞ)いてみれば、相も変わらずヘイトまがいの〝嫌韓〟言説を売り物とする月刊誌が平積みにされ、首相の〝単独インタビュー〟がデカデカと掲載されている。

表紙のタイトルは〈習近平、文在寅(ムン・ジェイン)には一歩も譲りません〉。今号もやはり〝嫌韓〟特集を組んでいるらしく、脇にこんな下卑た見出しも並ぶ。〈文在寅は習近平の忠犬だ!〉〈股裂き状態、文在寅〉〈韓国、貧困のブラックホール〉。果てはつい先日、女性への性暴行問題で東京地裁から賠償を命じられた元テレビ記者も執筆陣に名を連ね、タイトルは〈桜を見る会 売国野党と朝日新聞〉。

うんざりする。あえて同じレベルの言説を振り回せば、この国の首相こそ〈トランプの忠犬〉であり、子どもじみた噓(うそ)を連発して恥を振りまく政権こそ〈売国〉ではないか、と嘲笑の一つも投げつけたくなるが、こんな月刊誌をまともに論評するつもりは毛頭ない。

ただ、つくづく思う。こんな月刊誌のインタビューに嬉々(きき)として応じることの意味を、首相は真摯(しんし)に考察してみたことがあるのか。いかに自身の応援団が集っていても、ようやく日韓首脳会談が開かれた時期、〝嫌韓〟言説をバラ撒(ま)く雑誌に登場し、首相がその一角に名を連ねることの意味と影響を、多少なりとも考察しての振る舞いか。これでは対日関係の悪化を憂う心ある韓国の人びともうんざりして匙(さじ)を投げるだろう。「こんな政権と対話などできるか」と。

しかし、そんな愚痴を連ねてもどこか詮無い。あらためて振り返るまでもなく現政権は、一貫して朝鮮半島への反感と憎悪を政権の浮揚力としてきた。2002年の日朝首脳会談以後、現首相は北朝鮮への〝強硬姿勢〟を売り物に政界の階段を駆けのぼり、政権の座に就いてからも北朝鮮危機を盛んに煽(あお)り、時に安保関連法はだから必要だと訴え、時に「国難」と称して衆院解散の理由にした。他方で歴史修正主義的な志向も露(あらわ)にし、政権の応援団は〝嫌韓〟言説を量産し続けている。件(くだん)の月刊誌に集う連中は代表格であろう。

つまり、昨今の日本で拡散してしまった〝嫌韓〟の風潮は、後述するように他のさまざまな時代的、社会的要因はあれ、〝政権主導〟の色彩が極めて濃い。また、その政権が「1強」として長期継続したことで、社会の中に相当深く根を張ってしまったのではないかと私は訝(いぶか)る。街角でヘイト言説をがなる連中などは論外にせよ、大手出版社までがヘイト本やヘイト記事を手がけ、テレビにも隣国を嘲笑するかのような番組が溢(あふ)れている。

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム