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2019年6月16日号
政治資金パーティーのカラクリ 一夜で数億円を動かす錬金術! 
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夏の参院選を前に、政治資金パーティーが盛んに開かれ、永田町関係者の耳目を集めている。そもそもパーティーでカネ集めをするようになったのはなぜなのか。「政治とカネ」の問題を抱えつつ、独特の集金システムが廃れない事情とは―。そのカラクリを解く。

令和時代が幕を開けた5月、政界は自民党各派閥の政治資金パーティーラッシュの様相だった。同9日の二階派(志帥会、43人)を皮切りに、13日は石破派(水月会、19人)、14日は麻生派(志公会、56人)、15日は岸田派(宏池会、49人)、21日は最大派閥・細田派(清和政策研究会、97人)、29日は石原派(近未来政治研究会、12人)。自民党7派閥中6派閥がパーティーを開催したのだ。石破派の関係者が言う。
「申し合わせたわけではない。予算委員会の時期を外した国会会期中にやりやすいタイミングを模索したところ、たまたま重なったということではないか」
21日、東京都内は前線と低気圧の影響で、日中は時折強い風雨に見舞われた。荒天にもかかわらず、東京・芝の東京プリンスホテルには夕方から大勢の人が集まってきた。細田博之元幹事長率いる細田派のパーティー参加者たちだ。参加人数は「5200人」(細田派関係者)。2階の大宴会場は開始時刻の午後6時には、立錐(りっすい)の余地もなかった。
パーティーは、会場入り口で所属議員全員が参加者を出迎え、会長の挨拶(あいさつ)、来賓の挨拶などで派閥の存在感を示す。重要な案件に向けて支援者にアピールすることも"お約束"だ。今年は言うまでもなく夏の参院選が重要課題である。
今夏に改選を迎える22人について「何としても勝ち抜かないといけない」と檄(げき)を飛ばしたのが同派出身の安倍晋三首相だ。乾杯後は会場にビュッフェスタイルで用意されたアワビのネギ蒸しと海の幸の照り焼き香草ソース、大エビと野菜の塩味炒め、寿司など豪華メニューが振る舞われた。「想定人数の6掛けが一般的」(細田派衆院議員の元政策秘書)という料理の数々は、瞬く間に食べ尽くされた。
9日にホテルニューオータニであった二階俊博幹事長率いる二階派のパーティーも大盛況だった。規模だけで見れば細田派、麻生派、竹下派、岸田派に次ぐ第5派閥だが、岸田派とともに細田派に次ぐ5000人を動員、首相も駆け付けた。
「想定を超える人が集まってくれた。参加者の皆さんには、派閥のパワーを知っていただけたのではないか」(二階派事務総長を務める平沢勝栄衆院議員)
総務省によると、昨年11月に公開された2017年分(同省提出分)の政治資金収支報告書で、政治団体が開いた政治資金パーティーの収入総額は、77億5500万円(343団体)。なかんずく活況を呈しているのが派閥主催のパーティーだ。二階派事務総長である前出の平沢氏がズバリ、その理由をこう解説する。
「カネです。政治活動には資金が必要だからです。しかし、パー券を買う人は見返りを求めない。純粋に応援してくれている」
石破派関係者もこう話す。
「各派閥ともに外に事務所を持っています。家賃、事務員の人件費、光熱費などランニングコストがかかります。それを賄うのが第一の理由です」
年間5万円を超えると政治資金収支報告書に記載が義務付けられる献金と違い、パーティー券販売では1回20万円を超えない限り購入者や団体名を記載する必要がない。使い勝手よく収益を政治活動に充当できる。各派閥が資金集めに注力するのが主に国政選挙前のタイミングであり、まさしく「今」というわけだ。
自民党のパー券は1枚2万円。細田派の場合、参加者5200人で単純計算すると1億400万円の売り上げになる。細田派衆院議員の元政策秘書は「パー券を買った人とパーティーの参加者はイコールではない。会場に足を運んだ参加者5200人の倍くらいの収入になるのではないか」。

◇氷代、モチ代の"互助システム"

17年度の政治資金収支報告書を見ると、細田派の政治資金パーティー収入は2億98万円。例年、5000人前後の参加者で、元秘書の証言と符合する。一方で支出を見ると、パーティー経費は3039万6487円。細田派の17年のパーティーは1億7058万3513円の利益を生み出したことになる。ランニングコストを賄っても、お釣りの額は莫大(ばくだい)だ。

現在、自民各派のパー券販売のカラクリはこうだ。
「パー券は派閥の所属議員に割り当てられ、各議員が販売します。当選回数の少ない議員は少ない枚数、閣僚経験者は多い枚数をさばくこととなる。割り当て枚数は明かせないが、全員合意の上で決められます」(石破派関係者)
たとえば細田派の場合、「パー券は当選1~2回生が50枚、3~4回生は100枚、5回生は150~200枚、閣僚経験者は250枚以上が基本的なノルマになっている」(細田派関係者)。金額にすると1~2回生が100万円、3~4回生が200万円、5回生は300万~400万円、閣僚経験者は500万円といった具合だ。
「各派で違う。原則は当選回数や閣僚経験の有無ではあるが、合議のうえ、パー券を引き取る枚数を決めている」(石破派関係者)
派閥事務所が売り上げをまとめ、領収書とパー券の番号を照合し、金額に漏れがないか精査される。派閥事務所にプールされたカネはその後、販売枚数に関わらず、およそ100万円、50万円単位で一律に派閥メンバーに分配される。
「夏は氷代、年末にはモチ代として配られます。選挙がある場合は寄付金を渡す。今は皆、銀行振り込みです。派閥には皆で助け合う互助の精神がある。つまりは互助システム」(前出・細田派議員の元政策秘書)
ちなみに、自民党の派閥は、自由党と日本民主党による保守合同で自由民主党が誕生した1955年当時から存在していた(*)。
それでは、そもそも政治資金パーティーの起源はいつなのだろうか。
「結党時に党総裁選に公選制が導入されたため、保守合同当時から議員個人の政治資金パーティーも行われていました。衆参両院議員と地方代議員による投票で、数(票)を集めることが求められたのです」
こう語るのは、「政治とカネ」の問題に詳しい日本大法学部の岩井奉信(ともあき)教授(政治学)。高度経済成長期の60年代までは、派閥の拘束力がまだ緩く、総裁選では票集めのために各派閥が大金を"無差別"にばらまいたという。
「二つの派閥からカネをもらうと『ニッカ』、3派閥からカネを受け取ると『サントリー』、派閥や個人事務所など4カ所以上になると『オールドパー』と、酒に例えた隠語が生まれました」(岩井教授)
派閥抗争が花盛りだった70年代に入っても、パーティーを派閥主体で行うケースはほとんどなかったようだ。「"三角大福中"と呼ばれる派閥のリーダーたちは企業・団体に太いパイプを持ち、献金で潤っていた。当時も引き続き、政治資金パーティーはもっぱら個々の議員が開いていました」と述懐するのは、前出・元経世会関係者だ。

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