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2021年4月11日号
展覧 まるで犯罪映画!刑事に密着 渡部雄吉の「張り込み日記」展
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 さながら往年の映画「張込み」やドラマ「七人の刑事」のよう。だが、この写真の刑事たちは本物で、殺人事件を追う姿に密着した実録なのだ。東京のJCIIフォトサロンで3月30日から開かれる渡部(わたべ)雄吉作品展「張り込み日記」には、この国の1958年の素顔が活写されている。

 写真家・渡部雄吉(1924〜93年)は米アラスカの先住民や欧米の建築写真が有名だ。国内では「台風が来た」などの名作も多いが、事件の密着取材ものは珍しい。

 題材は58年1月、茨城県水戸市で発生したバラバラ殺人事件。34歳の渡部は4月の20日間、捜査本部のベテランと若手の2人の刑事に肉薄して撮影し、12点が講談社の総合雑誌『日本』6月号に掲載された。写真は容疑者の取り調べ場面で終わるが、犯人逮捕は7月で、61年3月に死刑判決が確定している。

 これらの写真から浮かび上がってくるのは、刑事の気迫、東京の街並み、高度経済成長に入った昭和のにおいであり、人の顔つきも今とは違う。

 ただ、全編スナップか隠し撮りなのだが、演出は全くないのか、今なら無理な密着取材をどう実現させたのか。渡部も刑事もコメントを残しておらず、謎のままなのだ。

 ところで、この作品は2011年になって意外やフランスで写真集が刊行され、「まるでフィルムノワール(犯罪映画)じゃないか」と欧米で大評判になり、これを受けて日本で12年と13年に二つの出版社から写真集が上梓(じょうし)された。そんな経緯も興味深い。

 企画担当の白山眞理さんは「JCII(日本カメラ財団)には、この作品の全ネガ31本があり、一度展示をと思っていました。今回は大事な場面はもとより未発表のカットも多数入れて、53点のプリントが展示されます。また当時、総合雑誌のグラビア製作費は川端康成作品の原稿料より高かったとか。総合雑誌の写真が隆盛だった時代の仕事ぶりをご覧ください」。

(南條廣介)

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