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2018年11月 4日号
W経済アナリスト"初の親子対談" 森永卓郎×森永康平「家族とカネ」を語ろう  
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◇10年後の「とてつもない格差時代」をどう生きるか

テレビや雑誌でおなじみの経済アナリスト・森永卓郎さん(61)の長男、康平さん(33)は今年、金融関係の会社を辞め、起業した。父と同じ肩書でオンラインメディアに経済評論の記事も書く。親子2人による初めての"対談"で「家族とカネ」を語りつくした。

―初の親子対談ということで、森永家の「お金の方針」をお聞かせください。
父(卓郎氏)康平が小学校高学年ぐらいまで小遣いはあげず、欲しい物を買ってやっていました。ある時、康平と4歳下の弟の2人だけで牛丼の「松屋」に行かせたら、ドリンクバーが有料だと思わずに飲み、店を出た後にようやく気付いて、店に戻って払ったというんです。それを聞いて、「これはマズい」と思った。ああ、買い与えてばかりだと子どもは考えなくなるんだと気付きました。それで小遣い制にした。小5の時は500円だったかな。
息子(康平氏)全然覚えてない。捏造(ねつぞう)している気がする(笑)。小学生の時は、同級生に親が社長の子も貧しい家の子もいて、家庭によって経済環境が違うことに気付いた。ウチは金持ちでも貧乏でもなく、普通という認識でした。
父 いや、実は康平が生まれた1985年が一番貧乏だったんです。新卒で入った日本専売公社(現・日本たばこ産業)から経済企画庁(現・内閣府)に出向中。経済モデルを分析した結果、バブルが来ると確信したのですが、誰も信じてくれない。頭にきて、地価が上がることを証明しようと、年収300万円なのに一戸建てを(埼玉県の)所沢に買ったんです。ローンを返済すると手取りが月6万円。同僚がどんどん結婚する時期なのにお祝いが出せない。生活苦から雑誌に寄稿し始めたんです。
息子 父が有名人だと気付いたのは「ニュースステーション」に出るようになった2000年。中3でした。大学入学後は父がバラエティー番組にも出るようになって、周囲からいろいろ言われるようになった。
―金融業界に入ったのは、お父さんの影響ですか。
息子 僕と弟は「あんな父親にはならない」と互いに言って育ったんです。仕事ばかりで家に帰ってこないから。ただ、中学生の頃、父が勤め先の経済リポートを持ち帰って、「裏に絵でも描くのに使え」と言うんです。絵を描くのに飽きた時にリポートを読んだのですが、難しかった。父に解説を頼んだら、分厚い経済学の教科書を2冊渡され、「自分で勉強しろ」(笑)。でも、その経験のおかげで、大学の授業は知っていることばかりでした。それで経済に興味を持ったのは事実ですね。
父 コイツは金融業界に入ってから転職してばかりでふらふらして、あげくに子どもが3人。とてつもない人生のリスクを負っている。私は「好き勝手にやっている人」と思われがちですが、過去38年間、一年としてサラリーマンじゃなかった年はないんです。家族が路頭に迷わないようにした上で、余った時間で好きなことをやっている。コイツはいきなり会社を辞めちゃう。
息子 最初の転職もその次も、次の会社が決まってから辞めたから。今年、会社を辞めた後もすぐ起業したし。
父 私は十数年前までシンクタンクに勤めていましたが、親会社が合併したら管理が厳しくなって、「メディアの取材を受けるには稟議(りんぎ)書を書け」と。当時、1日10件ぐらい取材を受けていたので、そんなのやってられない。それで獨協大学と教員の契約をしてから、シンクタンクを辞めました。家族を養う分は確保した上で好き勝手やっていた。
息子 そう言うけれど、家に帰ってこなかったじゃない。友達は土日にお父さんと野球やったり、虫を捕まえたり。うちはなかった。
父 いやいや、(埼玉県の)東松山に化石を掘りに行ったり、魚釣り......。
息子 ほとんどないです、そんなの。数えるぐらい。うちは母子家庭だったと思います、本当に。母もそう言っているのでこれは間違いない。

◇投資では「自分のリスク」も勘定に

―康平さんが起業した理由は、仕事と子育ての両立も目的だそうですが、お父さんが反面教師ですか。

息子 どうでしょう。でも、大人になったら父のことを理解できました。働くのは楽しいですから。さっき父に「ふらふらしている」と言われましたが、たしかに20年前に今の僕と同じことをしている人がいたら「おかしなヤツ」と言われていたでしょうが、今はネットが普及し、サラリーマンより稼いでいる個人はいくらでもいる。不安定さはあると思いますけれど。僕もサラリーマンを10年以上やってきたから、サラリーマンの危なさも分かる。会社がつぶれた時、稼ぎ方を知らない人が多い。大学の同級生も転職している人が多い。10年間、同じ会社に勤めるほうが珍しいんじゃないですか。
父 こないだ森永ゼミの1期生に会ってきました。転職したのは半分ぐらいですかね。リーマン・ショックがあった2008年の卒業生です。
―経済アナリストとして執筆活動もする康平さんに、先輩としてアドバイスはありますか。
父 親が死んでも締め切り厳守。
息子 毎日、夜中まで書いているから死にそうだよ。
父 そこが甘い。私は一番抱えていた時、連載が37本。1日平均で締め切りが7、8本あった。今でも20本以上ですが、なんともないです。よく編集者から電話がかかってきて「今日、締め切りですよ」。慌てて「送信し忘れてました」と答えてから書き始めて30分以内に送ります。東京都心の事務所から大学の最寄り駅までの42分で少なくとも1本は書く。康平はいろいろと調べて書いているから遅い。ちゃんとしたものを書こうとして遅れるぐらいなら、いいかげんなものを期限内に出す!
―子どもができて金銭感覚は変わりましたか。
息子 もともとお金を使わないので、子どもができて負担が増えたと感じたことはないですね。酒は飲まないし、たばこも吸わないし、ブランド物も買わない。お金に関してはめちゃめちゃ堅実なザ・日本人です。
父 資産運用は自分自身のリスクを含めて考えないと。公務員は思いっきり投資でバクチ打っていいんです。自分のリスクが低いから。康平みたいな収入が不安定な人はあまりリスクを取ってはいけないんです。
―これからの10年、どうしたいですか。
息子 自由でいたいですね。会社の飲み会に出席しないと小言を言われるとか、満員電車で通勤するとかはもう嫌です。だからといって、「世の会社員は独立しよう」と呼びかけたいのではありません。サラリーマンのままでも、自宅やリモート(会社でない場所)で仕事をしてもいい世の中にだんだんなってきたと思います。
父 私は子どもが巣立ったので、リスクを取りにいってもいいんですが、しがらみから抜けられない。獨協大経済学部のゼミは2年生からですが、「卒業まで面倒をみないといけない」と思ってしまう。送り出すと次の2年生が入ってくるから、ゼミ生のことを考えると足抜きができない仕組みになっているんです。70歳まで抜けられないのかな。
―何を専門とするゼミなのですか。
父 労働経済学です。学問はほとんど教えていません。最初の半年間は吉本興業の芸人養成所とほぼ同じ。コミュニケーションのトレーニングばかりやっている。なんでそんなことをやるのかといえば、これからの世の中はAI(人工知能)とロボットによって、定型的な仕事が確実に置き換わってしまう。最後まで人間がやらないといけないのは、コミュニケーションやクリエーティビティーが問われる仕事。そうなると、とてつもない所得格差が起きる。私は「10年後の日本社会は、所属タレント約6000人の大半が年収10万円未満の吉本興業だ」と言っています。

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