2020年1月以降、閉ざしていた北朝鮮の中国との国境周辺が、ざわざわとうごめき始めた。人の往来が途絶えて3年超。「国境開放か」とうかがえる動きが出始めているためだ。
8月16日、北朝鮮のテコンドー選手らがカザフスタンで行われる世界選手権に参加するため、中朝国境の中国側の都市・丹東に入ったことが報告された。
8月27日には、北朝鮮の「国家非常防疫司令部」が外国に滞在している北朝鮮国民の帰国を認めるとの通達を国営メディアを通じて発表した。これに先立つ7月末の朝鮮戦争停戦日、北朝鮮では「祖国解放戦争勝利記念日」となるが、その行事に中国とロシアからの代表団を迎え入れている。
また、8月下旬には北朝鮮国営・高麗航空機が北京とロシアのウラジオストクに飛来した。9月下旬から10月上旬にかけて中国・杭州で開催されるアジア大会に、北朝鮮選手も参加する可能性が高まっている。
9月下旬には外国人観光客を受け入れるという話も聞こえてくる。長らくの鎖国状態で貿易もままならず、経済状態が悪化しているとされる北朝鮮。観光客がもたらす外貨はのどから手が出るほどほしいとして、早急かつ全面的な国境開放・人的往来の復活を望む声が、中朝国境周辺では高まっているようだ。
一方、逆の動きもあるらしい。実は、北朝鮮から出国する人が増えているというのである。
「経済状態がきつく、配給が行われている組織ではコロナ前の数分の一の量しか配給されていない状態。本当に外貨は1㌦でもほしい状態」(北朝鮮とビジネスを行っている関係者)
そのため外国での人脈や、〝カネづる〟となりそうな関係を持つ国民を積極的に出国させて、外貨を稼いでくるように指導層が勧めているという。そんな出国者のほうが北朝鮮に戻ってくる人よりも多いようだと、現地から聞こえてくる。
人的往来の本格化、特に北朝鮮への入国が一気に進むという見方は時期尚早だとの証言もある。北朝鮮に近い中国ビジネスマンは、コロナ感染を防ぐことを国境封鎖の名分としたため、まだまだコロナへの警戒心があり、北朝鮮では多くの入国者を受け入れるには不安が強いという。確かに、前出の国家非常防疫司令部の通達にも、入国者は1週間の隔離が義務づけられていることが明記されている。
ワクチン接種も十分ではなく、衛生状態もよくない。そのため入国者受け入れは段階的に、かつ少人数ずつでないと、現在の防疫体制では十分にカバーできないのが現状のようだ。アジア大会でも「参加人数はできるだけ少なくするようだ」との話さえ聞こえる。
選手団が大規模であれば、帰国した際に思わぬ感染源になりかねず、パンデミックも起きかねないと前出の関係者は説明する。
9月9日には建国記念日、10月10日には朝鮮労働党創建記念日を迎える北朝鮮。だが、コロナの影響は他国以上に長引きそうだ。
(浅川新介)