中国人民銀行(中央銀行)は8月21日、2カ月ぶりの利下げに踏み切った。景気減速で企業や家計の資金需要が弱いためで、7月の人民元建て新規融資純増額は前年同月比50%も減少し、2009年11月以来の低水準となった。「中国経済はまさにデフレの淵に立たされている」(市場関係者)と懸念されている。早期の利下げで需要を喚起し、デフレを回避したいということだろう。
中国経済を巡っては、経営再建中の不動産大手、中国恒大集団が8月17日、米国で連邦破産法第15条の適用を申請したことも懸念材料となっている。同法第15条は経営再建中の外国企業が、債権者の差し押さえなどから米国内の資産を保護することを目的とするもので、中国政府は「オフショア債務再編手続きの一環で破産申し立てではない」と主張している。だが、中国経済の減速は否めず、経済的な結びつきが強い日本への影響も避けられそうにない。
特に懸念されるのが金融市場への影響だ。1990年代の日本のバブル崩壊では、不動産価格の下落などで多額の不良債権を抱えた金融機関がいわゆる「貸し渋り」を行い、多くの中小企業が倒産に追い込まれた。金融機関の破綻も相次ぎ、大手銀行も再編に追い込まれた。「バブル崩壊後の不良債権処理に窮した大手銀行が統合することで生き残りを図ったのが、メガバンクの誕生にほかならない」(金融庁関係者)とされる。その過程で、国は金融機関に公的資金を注入することで、金融システムの崩壊を防いだ。
そうした90年代の日本の金融危機を反面教師として研究してきたのが中国政府だ。「中国は6%を超す高度成長はいずれ終わり、低成長に移行する過程で、過剰に供給された不動産向け融資が不良債権化するリスクを認識していた。その処方箋として研究してきたのが90年代の日本の金融危機対応で、公的資金の注入に躊躇(ちゅうちょ)はしない」(メガバンク幹部)と見る。
習近平国家主席は金融リスクの抑制に乗り出している。7月に開催された共産党の中央政治局会議では、「金融の監督を強化し、中小金融機関の改革とリスク解消を着実に推進する」との方針が確認された。中国政府は公的資金を機動的に注入することで、金融機関の不良債権処理を促してきた。2022年に銀行が処理した不良債権額は3兆1000億元(約60兆円)と、3年連続で3兆元を超える高水準が続いている。
さらに、銀行の不良債権処理を促進するため、中国の地方政府は「専項債」と呼ばれる特別債の発行を増やし、調達した公的資金を銀行に注入する。狙いは銀行融資の先にある企業の救済だ。「日本の金融危機が深まったのは、銀行に公的資金を注入することに社会的な批判が高まり、政治が躊躇したことにある。その点、中国は共産党の1党支配で機動的に動ける利点がある」(メガバンク幹部)とされる。
日本に学んだ中国は、はたして金融危機を封じ込められるか?
(森岡英樹)