8月18日に米ワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談。3カ国の首脳が初めて一堂に会する場で、ひときわ明るかったのが、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領だった。今回の会談では「キャンプデービッド原則」をはじめ合意文書が出た。これらには尹大統領が力を入れる北朝鮮問題など、韓国の希望が十分に盛り込まれたためだ。
一方、尹大統領以外の政権高官や外交実務陣が落ち着かない日々を送っている。それは中国の存在だ。今回の会談では、北朝鮮以上に中国を意識していた。合意文書の中には「インド太平洋地域の水域における、いかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」と中国を名指し。これに対し、中国側は国営新華社通信が「日韓が米国の覇権維持のための駒となるのをやめ、歴史の誤った側に立つことのないように忠告する」と牽制(けんせい)した。
韓国の実務陣がハラハラするのには、十分な理由がある。2017年のトラウマがあるためだ。この年、在韓米軍はTHAAD(終末高高度防衛=サード)ミサイルを配備した。北朝鮮がミサイル発射や核実験を行うなど緊張を高めていたための対抗措置だった。
ところが、中国が配備に大反発。中国国民の韓国への団体旅行を禁止したり、配備施設の土地を所有していた韓国ロッテグループに圧力をかけ、国内での営業停止にまで追いやった。
3カ国首脳会談の結果を踏まえて今後、尹大統領が中国への対抗姿勢をさらに進めると、17年の事態が再発するのでは。それを外交実務陣らは恐れている。
しかし、尹大統領の対中姿勢は、今の韓国世論が十分に受け入れる余地がある。対中感情がとても悪いためだ。23年4月、韓国の市民団体が20、30代を対象に行った調査で「好感を持てない国」として回答者の91%が中国を選んだ。2位は88%で北朝鮮、3位は63%の日本だった。また米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」の中国に対する認識調査では、韓国の回答者の77%が中国を好ましくない国と考えていることがわかった。
実は、前出のサードミサイル配備までは、韓国の中国に対する好感度は高かった。「好ましくない」は3割程度だったが、17年度以降、ほぼどの世論調査などでも7割以上が中国を嫌うようになった。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前政権は、中国との経済関係や北朝鮮政策で中国に配慮していた。また、17〜18年は文政権の初期で、政権そのものは高い支持率を誇っていた時期でもあった。にもかかわらず、そんな政権の方針とは逆に、サードミサイルを巡る一連の動きは、韓国国民の対中感情は急速に悪化させたのだ。
「世論の変化と中国への悪感情の強さが、尹大統領の安全保障政策に強く影響している」(韓国外交省関係者)との指摘は十分にうなずける。ブロック化が進む東アジアで、北朝鮮を含めて中国の荒々しい行動が目立つ。国民感情を背景に日米韓の連携は、インド太平洋地域の平和をもたらそうとしているのか。3カ国首脳らの今後も注視せざるを得ない。
(浅川新介)