米国にはアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)と呼ばれるシステムがある。大学の入試に始まり、企業の採用枠などで、人種比率を考慮してマイノリティーを優遇するというものだ。多くが黒人やヒスパニック系住民への救済策という見方をされる。
例えば、2021年発表の国勢調査の結果では白人が59%、ヒスパニック系が19%、黒人が12%、アジア系が6%となっている。しかし、大学進学率で比較するとアジア系が60%に対して、白人が38%、黒人が37%、ヒスパニック系が33%、二つ以上の人種の「ミックス」が35%と差がある。
このため、特に有名大学ではアジア系学生が目立つことになるが、保守系の学生団体が米大学の最高峰であるハーバード大を、「アジア系が不当に入試差別を受けている」と提訴したことがあった。この時はハーバード大側が「入試に人種的考慮を行うことは不当ではない」と勝訴していた。
しかし、20年の連邦高裁の決定を不服として、学生団体は上告していた。そして、連邦最高裁は6月29日、提訴の対象となったハーバード大に加え、学生団体が同様の訴えを起こし、下級審で敗訴していたノースカロライナ大への訴訟も合わせ、人種的考慮を行うことは憲法が定める「法の下の平等」に反し、違憲だと判断したのだ。
実際、多くの米有名大では「いかにアジア系の志望者を絞り込むか」が最大の課題、とも言われている。試験や学業成績を基に合格者を割り出すと半数近くがアジア系になってしまう、とされるためだ。そのため大学では「ホリスティック(総合的)判断」としてスポーツ、生徒会への参加、ボランティア、地域の教会での活動などが考慮される。
一方、オバマ元大統領のように、黒人系学生への優遇措置でアイビーリーグのコロンビア大に進学し、その後人生を切り開いたという例もある。トランプ前大統領の登場により、「国の分断が進んだ」と言われる米国でアファーマティブ・アクションの廃止はデリケートな話題でもある。
ただし、過半数の米国人は今回の連邦最高裁の決定を支持しているという。ABCニュースなどが行った世論調査では、52%が連邦最高裁の決定に賛成と回答し、反対の32%を大きく上回った。支持政党による差も大きく、共和党支持者では75%、民主党では26%、無党派は56%が賛成という結果だった。人種別では白人60%、アジア系58%が賛成と回答したのに対し、黒人では25%、ヒスパニック系は40%にとどまった。
もちろん連邦最高裁の判決が下ったからと言って、すぐに全ての大学がアファーマティブ・アクションを廃止するわけではない。「アファーマティブ・アクションは米国人の教育の機会均等などに寄与している」と考える人も多い。
しかし、今回の決定は保守化した連邦最高裁、さらに米国全体が保守化の傾向にあることを示している。次の大統領選でトランプ候補に有利に働く、という見方もあるが、米国の分断がさらに深まるのでは、という懸念も生まれている。
(土方細秩子)