機密文書を自宅へ違法に持ち出したなどとして、スパイ防止法違反などの七つの罪で、37件について起訴されたドナルド・トランプ前大統領は、6月13日フロリダ州マイアミの連邦地方裁判所に出頭した。しかし、トランプ氏は37件の起訴内容を全て否認し、無罪を主張して「馬鹿げたでっち上げであり、民主党による選挙妨害だ」と訴えた。
トランプ氏が起訴されたのは、3月に不倫疑惑の口止め料支払いで業務記録改ざんの罪に問われたのに続いて2件目。米大統領経験者の起訴はトランプ氏が初めてだ。しかし、トランプ氏にとってはまたとない選挙キャンペーン機会ともなったようだ。
まず同氏は支持者らに対し、自らが出頭する裁判所前に集結するよう呼びかけ、実際に数百人規模が集まった。さらに出頭前には自らのSNSで「魔女裁判」「米国の歴史で最も悲しい一日になる」などとメッセージを発信した。
しかも、この日はトランプ氏の77回目の誕生日の前日だった。裁判所からとりあえず保釈された同氏は、そのまま車でレストランに向かったが、そこで待ち受けた支持者らからハッピーバースデーの祝福を受けた。
さらに、この後で行った演説では「凶悪な権力の乱用だ」と民主党のバイデン政権を非難。また「もし私が来年大統領に選ばれたら、ジョー・バイデン大統領とその家族に対して特別捜査チームを立ち上げる」と語った。これは副大統領経験者のバイデン氏自身が、同様に機密文書を任期後も保管していたこと、そして息子のハンター氏が父親のコネを利用してロシアや中国とビジネスを行っていた疑惑を追及する、という姿勢を明らかにしたことを意味する。
そもそも今回の起訴劇は共和党から「一方的であり公平ではない」と批判が出ていた。共和党から大統領選への立候補を表明している人の中には、「もし自分が大統領に選ばれたらトランプ氏が有罪になったとしても恩赦を与える」と宣言している人もおり、選挙ではライバルであっても民主党のやり方に不満を持つ共和党員は少なくない。
国民の意見も完全に二分している。民主党支持者の中には「彼を収監しろ」と声を上げる向きもある。しかし、共和党支持者は一貫して、「トランプ氏の政治姿勢がどうであれ、過去にも任期終了後に国家の機密文書を保持していた大統領や副大統領経験者はいる。なのに、なぜトランプ氏だけが起訴されなければならないのか」という疑問を呈している。
また、トランプ氏の選挙事務所は起訴後、700万㌦を調達したことを明らかにした。この時期の起訴は、逆にトランプ陣営を勢いづかせる結果になっているようだ。選挙・世論分析サイト「ファイブサーティーエイト」は6月14日時点の結果として、支持率は相変わらず共和党候補ではトランプ氏がトップ。また、バイデン氏との一騎打ちでも、トランプ氏が7㌽のリードとしている。歴史的な起訴はトランプ氏に有利に働いてしまうのか。
(土方細秩子)