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2023年7月 2日号
北朝鮮 岸田首相の呼びかけに変化? 「新語」が関係改善への糸口か
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 膠着(こうちゃく)状態だった日朝関係が、ざわざわとし始めた。きっかけは5月27日、岸田文雄首相が北朝鮮による拉致問題の「国民大集会」で行ったあいさつだ。

 ここで岸田首相は「条件を付けず、金正恩(キム・ジョンウン)(朝鮮労働党総書記)氏と直接向き合う決意だ」と首脳会談を呼びかけた。さらに「日朝の実りある関係を樹立することは、地球の平和に寄与する」「(岸田首相自ら)主体的に動き、自分直轄の、ハイレベルの協議を行いたい」「大局観に基づき、日朝双方のため、自ら決断する」という内容だった。

 すると同29日、朝鮮中央通信が北朝鮮外務省のパク・サンギル外務次官の「日朝両国が互いに会うことができない理由はないというのが共和国(北朝鮮)の立場だ」との談話を伝えた。岸田首相の「条件を付けず=無条件」というのは、故安倍晋三元首相が「前提条件なしで」首脳会談を行いたいと発言した内容とほぼ同じ。ただ、北朝鮮からみると「安倍とは違うようだ」と感じているようだ。

 北朝鮮関係者は「直轄、ハイレベル、大局観といった言葉に新鮮味を感じる。談話の名義が次官と、通常より格上の人間が応えたのは期待の表れだ」と解説する。安倍氏は「前提条件なし」と言いながら、拉致問題の解決という〝条件〟をつけ、北朝鮮には「結局、会談をやりたいのかやりたくないのかさっぱりわからない」という印象を与えてきた。〝無条件〟という岸田首相の発言には「安倍氏と同じではないか」との疑いもある。しかし、新たなワードも入っているため、関係改善へ本腰を入れるというシグナルだと北朝鮮は捉えているようだ。

 協議のためには、北朝鮮は日本側からのしかるべき行動を待っているともいえる。北朝鮮にとって拉致は「解決済み」の問題だ。何らかの行動を北朝鮮に示さないと、北朝鮮は協議に乗り出さないだろう。

 パク次官が「会うことができない理由はない」というのは、全体として日朝関係の改善は必要という立場にあるためだ。そのため、中国の北朝鮮研究者は「拉致問題を最初に打ち出すのではなく、それこそ大局観から『日朝関係の改善に歩きだそう』と呼びかければ、北朝鮮は日本を向く」と指摘する。

 協議のきっかけは、日本の朝鮮学校への教育無償化適用除外の解除といった在日コリアンに不利な措置の撤廃・緩和かもしれない。金総書記は、海外同胞すなわち日本の同胞への法律制定や支援に熱心だ。ほかには北朝鮮人同士による日本との往来緩和、そして独自の経済制裁の緩和・撤廃ができれば、岸田首相の本気度を推し量れるとの見方が強い。しかし、これらに実際に踏み切るとなると、自民党内、ひいては日本の世論からの強い反発が避けられない。

 核やミサイルの危機に直面する日本にとっては、北朝鮮とは少なくとも話ができる関係にしておいたほうがいい。岸田首相は今後、行動に示すことができるか。

(浅川新介)

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