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2023年5月21日号
金融 米ファースト・リパブリック銀行破綻で次の危機の焦点は
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 米連邦預金保険公社(FDIC)は5月1日、米中堅銀行ファースト・リパブリック銀行が経営破綻したと発表した。公的管理下に置き、競争入札が行われ、米金融最大手のJPモルガン・チェースがファースト銀の全ての預金と資産を買収することが決まった。同行の84店舗は同日からJPモルガンの支店として営業を再開した。米銀の破綻は今年3行目で、破綻規模は米史上2番目になる。

 公的管理・競争入札を経ての買収という形だが、事実上はあらかじめ買収先を決めた「プレパッケージ型」の破綻処理とみていい。預金者の動揺を最小限に抑えるためには信用力の高い銀行に間髪を入れず、引き受けさせる必要があった。それほど危機的な状況だったわけだ。

 米中小銀行からの預金流出はファースト・リパブリック銀行のみならず業界全体に広がっている。主な中小銀行では3月末にかけて平均4〜5%もの預金が流出していると見られている。

 こうした米中堅行危機は3月10日のシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻が発端だ。同行は増資失敗報道直後の同9日に経営危機がツイッターで拡散され、わずか1日で5兆円強、全預金の4分の1が一気に引き出され、あっという間に破綻した。

 さらにSVBの経営破綻は、ネットを通じて連鎖していった。同行が破綻した2日後には暗号資産(仮想通貨)企業を主取引層にするシグネチャー銀行が経営破綻した。資産規模で全米29位の中堅銀行だ。

 この2行の預金流出は「デジタル・バンク・ラン」や「サイレント・バンク・ラン」と呼ばれる。「デジタル」を通じて「サイレント」で瞬時に預金が大量流出する、これまでの取り付けとは様相を異にする事態だ。かつ、米国では預金の25万㌦までは全額、預金保険で保護されるが、SVBの場合、預金の9割超が預金保険を超える金額であったことから、流出額はスパイラル的に拡大した。このため米金融当局はSVBの預金の全額保護を打ち出し、不安沈静化に動いた。

 しかし、預金者の動揺は完全には収まらなかった。市場では次の破綻懸念銀行を探す展開で、その標的にされたのが冒頭のファースト・リパブリック銀行だった。危機感を強めた米金融界はJPモルガン・チェースなど大手11行が同行に300億㌦の預金を提供する「輸血」に踏み切った。こうした業界を挙げての支援から、ファースト・リパブリック銀行の預金流出は、3月最終週から落ち着きを取り戻した。しかし、予断を許さない状況が続き、今回の経営破綻となった。

 さらに市場では、次に来る金融危機の芽を探し始めている。米中堅行が危機に瀕(ひん)した背景にはFRB(米連邦準備制度理事会)の相次ぐ利上げがある。「インフレが完全に沈静化しない中、FRBの利上げが続けば、危機はさらにノンバンク、そして投資ファンドへと波及しかねない」(市場関係者)と見られている。

 米国のノンバンクや投資ファンドの資産規模は、銀行とほぼ同規模で、利上げに伴い資金調達に窮する流動性危機が生じかねないというわけだ。また、投資する有価証券などの評価損の問題も懸念される。米金融危機は第2ラウンド入りする可能性がある。

(森岡英樹)

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