韓国の最大野党で進歩系の「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が1月に検察当局に出頭し、「前代未聞の事件」として国内世論をにぎわしている。
李氏は2022年3月の大統領選に当時は与党だった「共に民主党」候補として出馬した。しかし、現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に僅差で敗れた。そのため李氏をはじめ野党側は、検察への出頭は尹政権による政治報復として強く反発している。
しかし、韓国では多くの人が李氏の出頭を「さもありなん」と受け止めている。李氏は大統領選に出馬する前、ソウル近郊の城南(ソンナム)市の市長時代の後半(16〜18年)から、数々の不正や疑惑が取り沙汰されており、いわば「疑惑の総合商社」であったためだ。その後は京畿道(キョンギド)知事を務めて大統領選に出馬。下馬評では十分に当選する勢いがあったにもかかわらず、僅差で敗れたのは、これら疑惑を気にした有権者が少なくなかったためだ。
今回出頭した理由は、自分がオーナーを務めたプロサッカーチーム「城南FC」のスポンサー企業に後援金を出させ、見返りに土地の用途変更などの許認可で便宜を図った疑いが持たれている。ほかにも、長男による常習的な賭博やセクハラ、売春の容疑もささやかれている。
中でも最大の疑惑は、韓国で「大庄洞(テジャンドン)スキャンダル」と呼ばれる都市開発事業を巡る不正疑惑だ。宅地開発事業に関与した企業が出資額の1000倍近い配当を受けていたことが発覚。この企業のオーナーと李氏が顔見知りであり、高額配当を利用して大統領選や各種不正を行ったという疑惑は今でも根強い。
しかも、開発を担当した市の都市開発公社の元幹部らが収賄容疑で逮捕され、関係者の中には自殺した者もいるほどだ。さらに、疑惑の範囲と深さも最大級だ。前出の都市開発企業のオーナーは新聞記者出身で、それもあってか、全国紙『ハンギョレ』の編集副局長がマンション購入資金として1億円近い金額を、このオーナーから借り入れていたことが発覚した。副局長は解雇され、ハンギョレの代表と編集局長が辞任に追い込まれている。
特にハンギョレは主張が野党寄り、かつ左派を代表する新聞だ。代表も社員の投票で選ぶなど「清廉・民主」を常にアピールしてきた新聞だけに、ダメージはより深かった。ほかにも裁判所判事などをも巻き込んだ疑惑が常に取り沙汰されている。
政治的に保守・革新(進歩系)といった二分論が根強い韓国。昨年の大統領選で進歩系から保守系へと政権交代が起こり、最大野党党首への捜査も前述したように政治報復とみる向きは強い。また、大統領選の結果からみれば、捜査を指揮する検察を支持する人も半分いれば、野党側を応援する人も半分いる。それゆえ、李氏は今でも党代表の地位にとどまることができている。
李氏と関係がある企業が「李氏の訪朝のため」として北朝鮮側に不正な送金を行ったとして摘発されている。李氏は昨夏の国会議員補選で当選しており、国会の同意なしに会期中は身柄を拘束されない不逮捕特権もある。しかし、政治的命運は、いつまで持つか。
(浅川新介)