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2022年12月18日号
米国 大谷翔平も損賠訴訟の被告に 政界も余波広がるFTX破綻
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 仮想通貨(暗号資産)大手交換所FTXトレーディングの経営破綻が波紋を広げている。同社は2019年に創業後、急激に成長した。しかし、今年11月11日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して事実上破綻した。創業者で若き実業家として名を挙げていたサム・バンクマンフリード氏(30)は「事業を急激に拡大しすぎて経営不安の兆候を見逃した」と語った。

 米誌フォーブスによる22年版の世界長者番付では、保有資産240億㌦で60位に入った人物が一夜にして無一文になった衝撃は大きい。負債総額は100億㌦以上と推計され、多くの資産を失った人々が出たことも問題だ。だが、米スポーツ界が大きな打撃を受けていることも注目されている。FTXはイメージアップのため、多くのトップアスリートを広告に起用したり、プロバスケットボールNBAチームの本拠地の命名権を取得したりするなどして知名度を上げていた。

 最も痛手が大きいとされるのがプロフットボールNFLのトム・ブレイディだ。FTXのCMに出演し、報酬は暗号資産で受け取っていた。そのため攻撃の司令塔のQBとして最多7回のスーパーボウル制覇している大スターは、少なくとも2000万㌦の損失を被ったと見られている。同様にウォリアーズの4度のNBA制覇で主力となったステフィン・カリーもFTXに深く関与していた。

 さらに大リーグ・エンゼルスの大谷翔平、テニスの大坂なおみも同社のアンバサダーとして登用され、同社の株式などを取得していた。バンクマンフリード氏は当時、大谷について「彼は全てのスポーツで最も注目される選手の一人であり、我々も同様にフィンテックの世界で革命的な存在になりたいと考えている」と語っていた。

 FTX破綻により損害を受けたとして、投資家らが11月までにフロリダ州の連邦地裁に損害賠償を求める集団訴訟を起こした。被告には、これらのアスリートも名を連ねており、訴えでは、「企業のプロモーション活動に参加することにより、顧客の被害を拡大させた」ために賠償責任があると主張している。

 さらに、この問題は政治にも飛び火しそうな勢いだ。バンクマンフリード氏は熱心な民主党支持者で党に多額の献金を行い、24年大統領選に向けての資金も提供しており、総額は約4000万㌦とも言われている。下院では12月に公聴会を開き、バンクマンフリード氏を招致する予定だ。そこで献金を受けた個人の名前が出れば、集団訴訟の被告に加えられる可能性もある。また、バンクマンフリード氏が刑事罰の対象となれば、多額の献金を受けた民主党政権そのものへの批判も噴出しそうだ。

 大谷、大坂両選手が賠償責任を負うのかにも注目が集まるが、暗号資産というシステムそのものへの疑問も露呈している。刑事罰が適用されればバンクマンフリード氏には終身刑の判決が下る可能性もある。デジタルドルの導入を検討中の米国にとって、大きな痛手であることは間違いない。

(土方細秩子)

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