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2022年12月18日号
北朝鮮 ミサイル発射に「長女」同行は金正恩氏の西側への「皮肉」か
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 ミサイルと少女。何とも似つかわしくない組み合わせだが、北朝鮮ウオッチャーが思わず目を奪われた一枚の写真が公表された。

 11月19日、北朝鮮の朝鮮中央通信が、前日18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射されたことを報道した。同時に金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党総書記が娘を帯同している写真も配信した。

 白いジャンパーに身を包んだ、ふっくらとした顔付き。父親の金総書記に似ている。しかし、よく見ると夫人・李雪主(リ・ソルジュ)氏にもとても似ており、一目で実の娘だろうということが分かる。

 韓国側の情報によれば、金総書記には3人の子どもがいるとされている。2010年に息子、13年に娘、17年にもう1人生まれたが性別は分かっていない。

 この情報が正確であれば、今回の少女は13年生まれの長女で、名前は「ジュエ」さんになる。11月19日の朝鮮中央通信は、「歴史的な重要戦略兵器試射場に愛する子と女史(夫人のこと)とともに、自ら出向いて試射の全過程を直接指導」と報道している。

 その愛する、わずか9歳の子を、なぜ子どもにはふさわしくない場になど帯同したのか。一つは、ミサイルの標的となる米国に対し「代を継いで対抗するのだ」という意志を見せるため、という理由が考えられる。

 北朝鮮にとって米国は、その存在を脅かす朝鮮戦争以来の敵国だ。そんな敵国に永遠に対抗していくという意志を、内外に示したという見方が有力だ。

 11月20日付の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』には、「人民の尊厳と運命を傷つけ、我々の子どもたちの明るい笑いまでを奪い取ろうとする敵対勢力に対する憎悪もそれほどまでに激しい(金総書記)」とし、「愛するお子様と女史とともに出てきて」核武力建設に勇気を与えたと記している。

 一方、そこまで大層な意味はないという指摘がある。今年9月に開催された建国74周年の記念行事での公演で、ある少女を「金総書記の娘では?」と外国メディアが報道したことがあった。この報道への「あてつけ」で、本物の娘を出したというものだ。

 実は、金総書記やそのファミリーに関する誤報や根拠のない誹謗(ひぼう)中傷を、北朝鮮は「最高尊厳に対する挑戦」として非常に嫌う。9月の時は、この少女の服装がほかの出場者と違い、かつ李夫人と親しげに話をしていたことが、娘である理由とされていた。

 だが、「世代を継ぐ、あるいは後継者についてうんぬんするのは、まだ時期尚早。西側メディアははしゃぎすぎ」(北朝鮮関係者)と困惑する声も。前述のように長男もいる家族関係において、後継者問題でわざわざ娘を出すのも、北朝鮮的ではない。

 結局、米国への強い敵対心を示し、ファミリーで軍関係者を慰労しながら、西側にも皮肉の一針を刺した――。この程度で考えるのがよさそうだ。

(浅川新介)

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