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2022年11月20日号
韓国 150人超が犠牲になった梨泰院 旧日本軍も駐屯した「軍の街」
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 日本人2人を含む150人超が亡くなったソウルでの圧死事故。韓国では当面、事故発生を防ぐことができなかった警察への責任追及が本格化しそうだ。

 事故現場のソウル市龍山区梨泰院(イテウォン)地区は、最近では韓流ドラマ「梨泰院クラス」で有名になったが、日本にも因縁のある街だ。1910年の日韓併合直前に旧日本軍の駐屯地が建設されて軍の街となった。敗戦後は米軍が進駐。以来、今も米軍基地が置かれている。

 そのため、多くの西洋人が住み、ソウルの中で西洋文化に簡単に触れられる。ハロウィーンでも梨泰院で行われるものが有名で、こういったイベントではコロナ禍前にも多くの人が訪れていた。

 事故発生現場付近の「ハミルトンホテル」は梨泰院でも老舗ホテルで、米軍基地関係者の利用が多い。近くには西洋・エスニック料理のレストランやクラブといった施設も多く、自(おの)ずとホテル付近の通りに多くの人が足を向けたのだろう。

「圧死しそう」。事故発生の約4時間前から、警察には市民からの通報が11件あった。人々が十分に身動きができず、押し合っているばかりで「通行規制を早く行ってほしい」という内容の通報もあった。

 ところが、警察は通報のうち4件には警察官を出動させたものの、それ以外は電話でのみ対応していた。さらには、多くの人が集まることが予想されたにもかかわらず、交通警官などを十分に配置させなかったことも分かっている。

 同じ梨泰院で10月中旬に開催されたイベントでは2日間で100万人が訪れたが、警察官を109人配置。事故なく終わった。また、南部の釜山市で行われた世界的な人気グループBTSのコンサートには釜山市と連携し、警官約1300人を会場に配置するなど、万一の場合に備えていた。これも無事故だった。

 今回のハロウィーンには10万人超が訪れたが、配置された警官は137人。しかも、その6割超が交通ではなく刑事・外事関係の警察官であり、窃盗や麻薬取引の犯罪防止に力点が置かれていた。

「今回のイベントは主催者がおらず自然発生的なイベントということで、対応マニュアルの適用外だった」と警察側は釈明。しかし、「マニュアルの対象外であっても、国民の生命を守るのが警察の仕事。あまりにもお粗末」という批判の声が高まっている。

 他にも、犠牲者が多く発生した通りにあるビルが違法建築だったことや、レストランが違法増築をしていた事実も発覚。行政対応の不備も指摘されている。

 今回の事件を、2014年に修学旅行中の高校生を含め約300人の犠牲者を出した「セウォル号沈没事故」に匹敵する事故と考える人が少なくない。当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領は対応の不備や事故直後の行動を追及され、支持率が急落するなど窮地に追い込まれた。

 今回も再発防止への対応を誤ると、現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の立場も危うくなる可能性がある。

(浅川新介)

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