8月に行われた第37回日本管打楽器コンクール(日本音楽教育文化振興会主催)のサクソフォーン部門で、ウクライナから日本に避難してきた五十嵐健太さん(20)が優勝、さらに他の3部門の優勝者を交えた特別大賞演奏会でも頂点となる大賞=内閣総理大臣賞を受賞した。
管楽器と打楽器の分野では、日本で最も権威があるこのコンクールは、全12部門を毎年4部門ずつ行ってきたが、過去2年はコロナのため延期。3年ぶりの今年はサクソフォーンなど計4部門で開かれた。応募資格はプロアマ問わず1984年4月2日以降生まれで、1、2次予選の通過者が本選に臨んだ結果、サクソフォーン部門では5人の中で五十嵐さんが群を抜いた評点で1位となった。
父親が日本人、母親がウクライナ人の五十嵐さんは、群馬県伊勢崎市で生まれたが1歳の時に父親を亡くし、5歳の時に母親とウクライナの首都キーウに移った。7歳からサクソフォーンを始め、リセンコ記念国立音楽学校をへてウクライナ国立音楽アカデミーに進み、数々の国際コンクールで入賞してきた。
しかし、ロシアの侵攻によってウクライナから弟とともに日本に避難、まもなく東京音大に編入学した。日本でのウクライナ支援のチャリティー音楽イベントにも招かれ、クラシックのほかウクライナ民謡や日本の唱歌「ふるさと」などを披露し聴衆を感動させた。
東京音大で五十嵐さんの指導にあたる波多江史朗さんは「彼の魅力は国際的に通用する感性。そこから発せられる表現力は日本人にはなかなか真似(まね)できない。どうしたら素敵な演奏になるか、お客さんが喜ぶかをいつも頭をひねって考えている」と絶賛。受賞に際し、五十嵐さん自身は「ヨーロッパでのコンクールで優勝するのは非常に重要なことだけれど、日本人の私にとって日本のコンクールに出場することは特に重要で、そこで優勝することはとても栄誉だと感じます。私は日本人ですから」と喜ぶ。(川井龍介)