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2022年7月31日号
北朝鮮 複雑な思いあった安倍氏死去 実は「強い指導者」に親近感?
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 7月8日に安倍晋三元首相が銃弾に倒れた事件を、北朝鮮は冷静に見ている。国営メディアは安倍氏死去について、同13日時点まで報道がない。しかし、自民党内最大派閥の領袖(りょうしゅう)の死去であり、「今後、党内の派閥構成はどうなるのか」(北朝鮮関係者)という声が聞こえてきた。

 北朝鮮は、安倍氏に対して愛憎とまでは言わないまでも、複雑な気持ちを持っていそうだ。一つは、北朝鮮にとって安倍氏は「うそつき」だ。2018年に安倍氏は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と「条件を付けずに向き合う」と表明したにもかかわらず、「拉致問題の解決なくては会えない」といった条件を付けていたことがあったためだ。

 この発言まで安倍氏は、「拉致問題で解決がなければ日朝首脳会談など接触、対話はありえない」と言い続けており、北朝鮮は「対話の意思なし」とみていた。それだけに18年の発言は「対話の意思があるのか」と北朝鮮の腰が浮きかけた。ところが「拉致問題解決云々」との発言が続き、「結局『条件ありなのか』と北朝鮮側が言っている」(中国の北朝鮮研究者)。安倍氏の発言の真偽について常に疑問を持っていたようだ。

 一方、長期政権となった安倍氏の手腕と外交姿勢には一目置いていたのも確かだ。特に初の首脳会談を行ったトランプ前米大統領との信頼関係は、北朝鮮側が安倍氏の言動を常に気に留める理由にもなっていた。

 北朝鮮は、自国指導者のような強いリーダーを好む。初の日朝首脳会談を果たした小泉純一郎元首相、あるいはトランプ氏のようなタイプだ。

 小泉氏と平壌(ピョンヤン)まで同行した安倍氏にも、その主張は嫌いながらも、どこか親近感のようなものがあった。20年に安倍氏が辞任せずに長期政権を続け、かつトランプ氏が再選していれば、どこかで金総書記が対日交渉へ乗り出す可能性があったのかもしれない。

(浅川新介)

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