サンデー毎日

国際
News Navi
2022年1月16日号
北朝鮮 金日成氏の弟の金英柱氏死去 失脚も天寿を全うできたワケ
loading...

 北朝鮮の故・金日成(キム・イルソン)主席の実弟だった金英柱(キム・ヨンジュ)氏が死去したと北朝鮮メディアが2021年12月に伝えた。死亡日などは明らかにされていないが1920年生まれ。60年代に金主席の後継者と目された。対外的にも72年の韓国との「7・4共同声明」では北朝鮮側の代表として署名するなど実績を残した人物だった。また、戦前の関東軍の通訳として働いたことがあるなど、日本との関係もあった。

 モスクワ大などソ連への留学経験を持ち、61年には朝鮮労働党の要職中の要職である中央委組織指導部長に就任。70年には朝鮮労働党の序列で4位にまで浮上。一躍、後継者として注目された。

 しかし、この時期は金主席の息子で後に総書記となる故・金正日(キム・ジョンイル)氏も、父からの権力世襲を狙うようになる。後に金総書記は熾烈(しれつ)な権力争いを金英柱氏に仕掛け、金英柱氏は徐々に疲弊していく。

 74年、用意周到に権力への道を固めた金総書記に、金英柱氏は「反党分子」と名指しされ、実権を失う。75年には失脚が確認されている。

 隠遁(いんとん)生活を送っていたものの、93年に18年ぶりに復権する。これには、金総書記の国家運営のあまりのひどさに危機感を覚えた金主席が呼び戻し、体制の立て直しに起用したようだ。94年7月に金主席は死去したが、98年に最高人民会議(国会に当たる)常任委員会の名誉副委員長など実質的な権限はないものの、金正日政権に居続けた。金正恩(キム・ジョンウン)政権になっても最高人民会議の代議員に選出されている。

 激しい粛清を繰り返した金総書記だが、叔父は生かし続けた。これには「建国の父の実弟」という事実以上に、外に漏らしたくない絶対秘密があった。それは、金主席の死因や死亡の状況を知っている可能性があったためだ。

 父の死に息子が関与したという疑惑は今でもあり、〝弱み〟を金英柱氏が握っていた。それが100年を超える天寿を全うできた理由だろう。

(浅川新介)

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム