北朝鮮の政権内部に変化が生じている。今年1月に朝鮮労働党第8回党大会が行われた際、同党の規約が改正されたが、今になって具体的な中身が判明した。
注目すべきは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の下に「第1書記」というポストが置かれたこと。また、北朝鮮で言う「首領」という言葉が持つ意味合いが変化した、というものだ。
第1書記とはかつて金総書記もつけた肩書だが、今回の意味合いは違う。当時、父である故・金正日(キム・ジョンイル)総書記と同じ肩書は畏れ多いという理由で「第1書記」と付けた。しかし今回は、金総書記に集中している権限と責任を委譲するために設けられたという見方だ。
その第1書記には金総書記の最側近とされる趙甬元(チョ・ヨンウォン)・政治局常務委員が就いたとみられている。金総書記の信頼が厚い上に、政策立案を担う政治局と事業の執行を指導する書記局の責任者であり、実務面でも適任であるためだ。
実際に、金総書記はこれまで「現場の状況に合わせて対策を立てるべき」として、権限の委譲を進めてきたのは確かだ。よく言えば現場重視で、状況変化に即して適切な対応をできるようにした。悪く言えば、失敗でも責任は自分が負わず、その責任者に負わせられるという側面もあるが。
また、首領とはこれまで故・金日成(キム・イルソン)主席を指す言葉として北朝鮮で使われてきた。実際の党規約改正では、金日成・金正日の双方を「首領」として包括的に言及している。だが、北朝鮮メディアでは「人民の首領である金正恩同志」との表現が使われ始めた。「首領様」「将軍様」と称されてきた最高指導者に対する、金総書記の認識と統治における位置づけが変化したのかもしれない。つまり自分は自分なりの政治をやっていく、という意志が垣間見える。
コロナ禍に経済制裁という厳しい情勢は変わらない中、このような変化が吉と出るかどうか。
(浅川新介)