サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2026年9月13日号
林真理子さん!「80代はボケない、死なない」のが普通ですよ!
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牧太郎の青い空白い雲/1036 
「二刀流」を極めた宮本武蔵と天才剣士・佐々木小次郎。(いつだったか覚えていないが)その二人が対決した「宮本武蔵 巌流島の決斗」(1965年公開)を映画で見た。 宮本武蔵は中村錦之助(萬屋錦之介)。佐々木小次郎が高倉健だったと覚えているが、ともかく小次郎は「美青年」だった。日本史上、最も有名な「果たし合い」(慶長17年=1612年)を演じた二人。この時、武蔵は29歳。小次郎は18歳だった。 ところが......モノの本によると、「小次郎はあの時78歳だった」とある。そういえば......。江戸後期の1840年代に描かれた一猛斎芳虎(いちもうさいよしとら)の「九州岸柳島において宮本無三四佐々木岸柳仕合之図」を見たことがあるが......。確かに小次郎は「中年のような容貌」だった。 熊本藩の二天一流兵法師範であった豊田景英が記した武蔵の伝記『二天記(にてんき)』(安永5年=1776年)には、確かに「十八歳」とあるけど......。多くの学者先生は、豊田景英が史料を参照した際に「七十八歳」を「十八」と誤写した可能性が強い、と言うのだ。 でも、78歳で「崖の上の決闘」ができるのか?「平均寿命32〜44歳」といわれる江戸時代だ。 しかし、である。江戸時代の「70代」は元気だったような気もする。徳川家康は「鷹(たか)狩り」の先頭に立ち、その帰りに「鯛(たい)の天ぷら」を食べ、食中毒で亡くなったとされるが......その時75歳だった。『解体新書』を出版した洋学者・杉田玄白は83歳まで生きたし、浮世絵師の葛飾北斎は88歳で大往生を遂げている。江戸時代の平均寿命が短かったのは、乳幼児の死亡率が高かったためではなかろうか。 そう考えると......81歳11カ月の当方、まだまだイケる。そんな気分だったが、数日前、不愉快な「文句」に出会った。『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』(幻冬舎新書、2026年5月発売)。作家・林真理子さんの新著である。 72歳を迎えた真理子さんが「健康やおしゃれ、お金、人間関係」について本音で喋(しゃべ)る人生論? まあ、どこにでもあるエッセー本だが、大ヒットらしい。 なぜ、売れたか? それは、はっきりしている。「挑発的なタイトル」で、お客さんを引き留めたのだろう。 不愉快である! 第一、間違っている。80代は(たいてい)ボケない。死なない。 江戸時代なら「70代は神様から与えられた特別な時間」かもしれないが......この令和の時代、70歳、80歳はごくごく普通。 もし、意見が合わなければ......。真理子さん! 〝決闘〟しましょうか(笑)。


 ◇まき・たろう 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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