サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2026年8月 9日号
自殺?他殺? 戦後の下山事件、平成でも「木原事件」の怪?
loading...

牧太郎の青い空白い雲/1033

 毎日新聞社に入社、新潟支局に配属されたのは1967年春、22歳だった。支局長は、事件記者として有名だった「タカ久」こと高橋久勝さん。戦時中、海軍予備学生の13期で〝艦爆乗り〟の特攻要員でいたらしい。朝の冷水摩擦を欠かさず、酒は飲まない。万事くよくよしない「楽天家」で、夜、酒が飲めないのに「古町」界隈(かいわい)でメシを奢(おご)ってくれた。

 話題はいつも下山事件。連合国軍の占領下にあった49(昭和24)年75日朝、国鉄総裁・下山定則さんが出勤途中に失踪、翌6日未明にれき死体で発見。事件発生直後から自殺説・他殺説が入り乱れ、松本清張さんが『日本の黒い霧』で取り上げている。

「あの時、先輩記者が歴史に残る特ダネを......」と話し始める。

5日の午後2時ごろ、ある旅館の玄関に中年男が1人で『6時ごろまで休ませてくれ』。女将(おかみ)は24畳半の部屋に案内。男は『涼しいですね、水をください』と言ったので、1階からコップに水を入れて持って行き、宿帳へ記入をお願いしたら『それは勘弁してくれ』と断られた」「これが下山さんだった。身長172㌢、年齢50歳くらい。ロイド眼鏡をかけ髪は七三分けで上品で優しい顔をしていた。女将は下山さんと似ているので、西新井警察署に届け出た。部屋からは5本の毛髪が見つかったんだが、うち1本が下山さんの毛髪と酷似していた。で、我が社の先輩は警察署から帰る女将の後を追い、この話をスクープしたんだ」

 女将の証言は捜査に大きな影響を与えることになったらしいが......。最後まで「死後れき断説」(他殺説)と「生前れき断説」(自殺説)が激しく対立したらしい。

「毎日新聞は自殺説、朝日新聞は他殺説。真実は分からない。ともかく記者は現場に行ったら、自殺か他殺か、事故かを慎重に判断するんだ」と支局長は教えてくれた。

「まず密室かどうか? 遺書は? 致命傷の傷の場所、深さ。身を守る際に出る『防御創』があれば他殺。自殺の場合、致命傷を与える前に皮膚を浅く傷つける『躊躇(ちゅうちょ)創』(ためらいきず)がある」

 何度もそう教えてくれた。前回、【自殺?事故?他殺?「下妻市長の名誉」を守るために捜査したら】を書いたら、読者から「気になる事件が!」との指摘を受けた。

 例の「木原事件」である。

 岸田文雄政権時に官房副長官を務めた木原誠二議員。20064月、その木原さんの妻X子さんの元夫である安田種雄さん(当時28 )が不審死。現場には大量の血。他殺を疑う向きが多いのだが......。なぜか警視庁は「事件性は認められない」と事実上捜査終結。だが、種雄さんの遺族がX子さんを相手取り、総額約1億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したと報じられている。

 真実は? 警視庁は「基本に忠実」であってほしいのだが......。

.....................................................................................................................

 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム