サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2026年8月16日号
大の里 ネットやSNSの悪口を無視して「令和の栃錦」になれ!
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牧太郎の青い空白い雲/1034 

「回しうちわ」を知ったのは小学6年生の頃。1958(昭和33)年の大相撲秋場所だった。

 初日、結び前の横綱・栃錦と平幕・北(きた)の洋(なだ)戦。立ち合いで「左差し」を果たした北の洋が栃錦を黒房下に寄り立てる。土俵に詰まった栃錦が左に回りながら突き落とし。両者、ほとんど同時に土俵の外に落ちた。

 裁く19代・式守伊之助は北の洋に上げかけていた軍配を、「何か」を見届けたのか?大きく翻して栃錦に上げた。

「回しうちわだ!」

 隣の観覧席のおじさんがそう叫んだ。

 行司が一度上げたうちわをおろさずに、そのままグルリと回して、もう一方の力士を勝ち!と宣言する......これが「回しうちわ」。初めて知った。

 ところが......正面の検査役から〝物言い〟。協議の結果、4対1で「北の洋の勝ち」と判定された。

「回しうちわ」を上げた伊之助は我慢できない。トレードマークの白いヒゲを震わせ、激高。両手で土俵を叩(たた)いて抗議する。

 蔵前国技館場内は騒然。伊之助は「栃錦の勝ち!」を言い続け(翌日のスポーツ新聞によると)騒ぎは13分にも及んだ。

 伊之助は「行司の権限を超えた行動」を取ったとして出場停止となったが......小学生の当方「反乱みたいな行動」を初めて目撃した。

 大相撲はイロイロ勉強になる。

 実は、栃錦の大ファンだった。しぶとい取り口から「マムシ」と異名を持ち、技能賞が9回。幕内優勝10回。カッコ良かった。(「マムシ」のことも「三角形の頭を持つ蛇」と初めて知った)

 昨今、大相撲で「初めて知ったこと」は......横綱はインターネットやSNSなどに弱い!という情報である。

 例えば、西横綱・大の里。「左肩関節脱臼」などの持病?を持っているが......それにしても、この間の名古屋場所。めちゃくちゃ弱くなった。なぜだろう? 大の里だけでなく、横綱になった途端にコロコロと負けるケースが多い。

 調べてみると「名人横綱」と言われた栃錦は幕内勝率71・6%。横綱になってからだと77.7%。横綱になって強くなっている。

「昭和の横綱」と「令和の横綱」は違うのか?

 一部の専門家は「相撲取りはSNSで心無い投稿が寄せられると、メンタルが傷つき、力が出ない!」と説明する。

 確かに、時代は変わった。ネットやSNSを上手に「処理」するだけでも、現代人の心に負担が掛かる。

 でも栃錦は、父親が9回目の優勝祝いに出掛けた時、交通事故で死亡する「悲劇」を経験している。

 それでも、このアクシデントを乗り越え、翌年の初場所には14勝1敗で10回目の優勝を果たしている。

 大好きな大の里! ネットやSNSを無視して「大横綱」になってくれ!

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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