サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年11月 9日号
お医者さんは"患者の味方"だけど、時には製薬会社の「強~い味方」?
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牧太郎の青い空白い雲/1004 


 新聞記者という職業の「悲しい性(さが)」なのか、何かにつけて疑ってしまう。政治家、お役人、商社マン......学者センセイや警察官、裁判官まで疑ってしまう。
 なのになぜか、「お医者さん」だけは疑わない。
 例えば「クスリは朝3剤、夕食後に5剤、寝る前にもう1剤」なんて〝命令〟されても素直に従う。
 なぜ、お医者さんを信じるのか? 不思議だ。「○○大学附属病院」という看板を信じているわけでもない。ただ、1日に80人ぐらいの患者の相談に応じる「過酷なお仕事」。文句一つ言わない「お医者さん」は神さまのような存在に見えるのだ。
 ところが、である。
 8月の猛烈に暑い日、病院の受付で、見ず知らずの患者さんから「医者が信じられないんですよ」と声をかけられた。「数ある薬の中から、どんな基準で薬を選んでいるんでしょうかね?」
 特効薬が一つしかないという場合を除き、お医者さんは「その患者に合った薬を使う」のだろう。
「でもあの人、列を作っている人、クスリ屋でしょう?」
 受付の前で列を作っていた人は、たぶん製薬会社のMR(医薬情報担当者)。新薬を説明しにやって来たのだろう。この時、5人もいた。
 その患者さんは「あの製薬会社の若いやつが医者にワイロを贈っているんじゃないかなあ? 今年に入って、薬が2種類も増えた」と笑うのだ。
 確かに、高齢者の多剤併用は話題になっている。75歳以上の患者の約25%に7種類以上の薬が処方されていると聞く。患者の負担も大きいが、医療費が膨らんで国庫も火の車だ。
「私、9種類もらっているのですが、余計な薬じゃないかと思うんです......。あなたは?」と聞かれ、曖昧に答えたが......。確かに9種類は多すぎる気もする。
 10月に入って、同じ病院で別の患者さんとの間で「高血圧」が話題。日本高血圧学会が6年ぶりに「治療ガイドライン」なるものを改定。75歳以上の最高血圧の降圧目標をこれまでの140㎜Hg未満から、年齢によらず「130㎜Hg未満」に引き下げた。
「少しぐらい血圧が高くても、問題がない!と言われていたのですが......また薬が増えるのかな」と患者さんの一人。
 今まで正常だったはずの「140㎜Hg未満」が危険な範疇(はんちゅう)になる? ちょっと妙だ。
 調べてみると2015年度、降圧剤の売り上げは5554億円。それが激減して今は1600億円前後らしい。製薬会社にとって「降圧剤」市場は儲(もう)からない?
 だから、製薬会社のために......今回の降圧目標の引き下げは(あの患者さんが疑ったように)「薬を売らんがため」?
 製薬会社の「強い強い味方」がいるのか? あ〜「疑う対象」が増えちゃった(笑)。
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 ◇まき・たろう
 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある<br>

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