牧太郎の青い空白い雲/1002
47歳で脳卒中で倒れたので30年以上、多くの「リハビリ医」の力を借りてきた。それ以外に「骨折」したり「肺がん」になったり、まるで「病気のデパート」。そのたびに「名医」に助けてもらった。
でも、思い出深いのは「石川誠医師」である。テレビ番組に呼ばれ「リハビリのゴッドハンド」と称賛された石川さん。彼が院長だった「初台リハビリテーション病院」(東京都渋谷区)には、長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督はじめ、サッカー日本代表のオシム元監督や自民党の谷垣禎一元幹事長など、多くの大物たちが再起をかけて入院した。その「名医」が新聞記者の当方に何度か「新聞、テレビでの〝呼ばれ方〟は不本意!」と話した。
「なぜ、俺だけ呼ぶんだ! リハビリ医療はチームプレー。リハビリ医、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど、各領域のプロが一丸となり持てる力を尽くさなければ理想の医療は行えない。リハビリに名医なんていない」。ラグビーが大好きな石川さんは「One for all, All for one.一人はみんなのために、みんなは一人のために」と何度も話した。
この言葉は元来、フランスの小説『三銃士』に登場する誓いの言葉というが、日本のラグビー選手は必ず「One for all, All for one」と言う。「チームワークの精神」が第一である。石川さんは4年前、74歳で亡くなってしまったが......。彼の口癖は「一度は秩父宮ラグビー場でプレーしたかった」。石川さんにとって「聖地」みたいな場所らしかった。
その秩父宮ラグビー場の「建て替え」が始まろうとしている。
このラグビー専用スタジアムは1947年に女子学習院の跡地に「東京ラグビー場」として完成。53年、ラグビー普及に尽力した秩父宮殿下の遺徳を偲(しの)び「秩父宮ラグビー場」と改名。まさに「聖地」である。しかし、この「建て替え」は明治神宮外苑地区の再開発の一環。小池都知事が音頭を取っているそうだが、外苑の樹木が次々と伐採され、地元では評判が悪い。聞くところによれば、ラクビー関係者の多くが反対しているらしい。反対の理由は「屋根付き施設化」。
そもそもラグビーは全天候型のスポーツ。寒い時、暑い時、雪の時、雨の時......天候をどう自分の味方につけるか、というのが「勝敗の分かれ目」。屋根付きは「聖地」に似合わない!と言うのだ。
なるほど、なるほど。
実は「ラクビー場建て替え」に関する反対意見はあまり聞かない。実は、この「再開発」には大手商社、不動産会社のほかに一部メディアが加わっている。だから「反対意見」が大きくならないとの見方も囁(ささや)かれる。慎重にやってくれ!
緑の神宮外苑は日本人の「宝」。「One for all, All for one」でいこうじゃないか?
◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある