サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年8月31日号
「日本人ファースト」になったら......ワンコイン弁当がなくなる?
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牧太郎の青い空白い雲/997

「アメリカ・ファースト」はトランプ米大統領が初めて使った「言葉」ではない。第二次世界大戦の直前、アメリカはヨーロッパの戦争に巻き込まれるのを避けるため、「孤立主義」を主張し「アメリカ・ファースト」という言葉を使った。

 戦後、アメリカが〝世界のリーダー〟となる過程でこの言葉はほとんど使われなくなったが、突如、トランプさんが「アメリカ・ファースト」と言い出した。「アメリカを最優先にしよう!」と訴える。ナショナリズムの典型だろう。

 言葉が持つ「狙い」は時代とともに微妙に変わる。

 今、流行(はや)りの「日本人ファースト」という言葉。参院選で大躍進した参政党代表の神谷宗幣さんが初めて使ったようだが......。多分、トランプ流の愛国主義を真似(まね)した〝キャンペーン〟なのだろう。参政党候補者の多くが「外国人は優遇されている」と訴えた。例えば......「労働力不足を補うため、外国人労働者の受け入れが進み、日本人よりもいろいろな点で優遇されている」「留学生に対する奨学金や授業料減免」「外国人による生活保護の受給」......。ざっくり言えば、日本人は損をしている!というのが彼らの主張である。

 しかし、彼らの言う「外国人優遇」は本当だろうか? しっかり点検しなければならないが......。「外国人優遇の存在」を論じる前に、「日本人ファースト」という言葉自体が外国人差別や排外主義を煽(あお)っているのではないか。

 佐賀県伊万里市でベトナム人技能実習生の男が強盗殺人容疑で逮捕される事件が起きた。テレビ番組で、この事件を知った人が(少数とは思うが)「外国人の存在は不安と恐怖」「日本人ファーストでいかなければ」などと話す。外国人排除に向かっている。

 でも、日本から外国人がいなくなったら、日本はどうなるのか?

 厚労省が今年1月に発表した202410月末時点の「『外国人雇用状況』の届出状況」を見ると、日本の外国人労働者数は230万人を超えた。全雇用者に占める外国人労働者の割合は約38%。

 僕の自宅近くのコンビニは(日によって違うが)外国人店員ばかりだ。留学生や技能実習生が働いているようだが、彼らに「なぜ、コンビニなの?」と聞いた。

「日本人の若者は24時間営業のコンビニ勤務を嫌がっているんだ。だから我々、外国人労働者を積極的に採用してくれる。コンビニの仕事は日本語の学習にもなるから」と笑った。彼はベトナム人だが、確かに日本語も上手に話す。

 もし、彼ら外国人を排除すれば、コンビニ業界は成り立たない?

 最近、格安の「ワンコイン弁当」をひいきにしているが、聞くところによると、この弁当を作るのはアジア系外国人が多いとか?

 外国人がいなくなって、日本人は「幸せ」になれるのだろうか?

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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