牧太郎の青い空白い雲/975
誰よりも一番尊敬した政治家は、「カミソリ後藤田」と呼ばれた自民党の重鎮・後藤田正晴(1914〜2005)さんである。
後藤田さんは東大卒。戦前戦後、警察官僚として治安維持に努め、第6代警察庁長官。退官後、田中角栄元首相に請われて内閣官房副長官になった。それ以降、いつも政権の要職にあり(危なっかしい?)自民政権を支えてきた。
竹下内閣の後継に名前が挙がったが「総大将には向かないのだよ」と自民党総裁就任を固辞。結局、竹下さんは外務大臣の宇野宗佑さんに白羽の矢を立てたが、宇野首相は『サンデー毎日』がスクープした「女性問題」がもとで短命に終わった。あの「女性問題」を取材した時、「後藤田さんだったらこんなことはなかった」と痛感した記憶がある。
後藤田さんに初めてお会いしたのは、彼が中曽根内閣の官房長官を務めていた時期。番記者として一日中追いかけた。夜には、東京・狸穴(まみあな)にあった旧外務次官邸という「隠れ家」に陣取って「懇談」という形で取材に応じる。「後藤田五訓」を知ったのもその時だった。
①出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え②悪い、本当の事実を報告せよ③勇気をもって意見具申せよ④自分の仕事でない!と言うなかれ⑤決定が下ったら従い、命令は実行せよ―。なるほど。「何もしないで、ただ天下りする高級官僚」ばかりのご時世。「インチキ官僚」は許さなかった。
こんなアドバイスもあった。「君たちも外国に赴任すると思うから教えてあげよう。どこの国もホテルの電話盗聴は当たり前。君たちのようなチンピラ記者だって、その国にとっては貴重な情報源だ。それに女性はご法度だよ。若い記者さんに近づくのは間違いなくスパイだから」と教えてくれた。
「ここだけの話だけど、若手議員の○○さんは某国スパイの言いなり」と話したが......。その○○さんは首相になったが、外国女性との「親密な交際」が問題になり退陣した。後藤田さんは常々、「日本はスパイが平気で活躍できる国なんだ」と話していたが......。そういえば最近、東京・赤坂議員宿舎で起こった「珍事」を思い出した。
石破内閣の重要閣僚・岩屋毅外務大臣はトランプ米大統領の就任式に出席して1月23日帰国。議員宿舎の自宅に戻った......。うっかり施錠せず部屋を出たのになぜか鍵がかかっていた。岩屋大臣がインターホンを押したら、40代くらいの全く見知らぬ女性が出てきた。
これは「珍事」だ。
見知らぬ女性が侵入したというのに、岩屋大臣は記者団に「すぐにお帰りいただいたので何の被害もなかった。ご心配をおかけした」と。ひょっとしてこの女性は?
真相は分からないが、後藤田さんだったら「大臣罷免!」と言うだろう(笑)。