サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年2月16日号
カラスがカァと鳴くと返済? 日銀は「カラス金」に似ている
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牧太郎の青い空白い雲/974 

 戦争直後の昭和中期、東京・柳橋の花柳界で育ったので「理不尽なこと」を幾つも見た。

「カラス金(がね)」もその一つ。「鴉金」「烏金」と書かれるらしいが、一昼夜を期限として高利でカネを貸す業者。借り入れた翌日の早朝までに、利息と元金を返済するのが掟(おきて)。明け方、カラスがカァと鳴くまでに返済しなければならない。

 利子は34%ぐらいで〝天引き〟。芸者衆や板前さんが利用する。「○○婆」とか呼ばれる「年配の女性」が貸し付け、利息と元金を集金して回っているのを何度も見た。ごくまれだが、「カラス金」で借金が膨らみ自殺した人の話も聞いた。「江戸時代ならまだしも、こんな高利が残っているのはカラス金だけだろう」と母親は言っていたが......。考えてみれば、令和の時代も「高金利の悪徳消費者金融」が存在する。金利が高すぎて返せなくなり、夜逃げするサラリーマンがけっこう多い。

 では、「正しい金利」とは?

 江戸時代には両替商、質屋、素金(すがね)(質をとらない金融業)、日銭貸(ひぜにがし)(元金につき1日何銭何厘何毛と表示する金融業)それに例のカラス金......。数々の「金貸し業者」が存在したが、両替商は年利20%、質屋は年利48%と金利はバラバラ。年利3001000%という超高金利でも、当時の江戸っ子は平気でカネを借りていたらしい。もっとも「無利子」もあった。二宮尊徳が始めた「五常講(ごじょうこう)」という制度は無利子・無担保。「不払い」が生じると共同責任として組合員全員が負担する。この「世界初の信用組合」と言われるシステムを利用した武士もいた。

 いずれにしても、「金利」はイロイロ。その金利の決め方が「人生」を左右する。

 日本銀行が124日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利の誘導目標を現行の025%程度から05%程度にすることを決めた。リーマン・ショック直後の200810月以来、約17年ぶりの「高さ」である。果たして「正しい(適切な)金利」なのか?意見は分かれるかもしれないが......問題は「利上げのタイミング」だ。

 一部大手企業が「賃上げ」を行っているが、全体として経済は相変わらず「超不況」。昨年12月の時点で、倒産件数が32カ月連続で前年同月を上回る。東京の下町では介護事業所や児童福祉事業の廃業・倒産、地方では農業の倒産が「過去最多」だ。僕の周辺でもコロナ禍に実質無利子・無担保の特別融資を受けながら業績回復できずアップアップしている人も多い。

 そんな中で実施される日銀の「利上げ」。中小零細企業の資金繰りはさらに悪化するし、住宅ローンの変動型金利も上昇し20代から40代の「子育て世代」の負担はさらに重くなる。と考えると......。ついつい「日銀はカラス金みたいだ!」と思ってしまった。

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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