サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年2月 9日号
メディアは「売春」を「援助交際」と書き、「強姦」と書かずに...
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 昨今、新聞やテレビの「常用語」が気に入らない。

 例えば「援助交際」である。善意に基づく「行為」と思いがちだが......。援助交際とは「金銭などを目的として性行為やデートなどを行う男女交際の一形態」。要するに、「売春・買春」のこと。「人身売買」にかかわる悪質なケースさえある。明らかに犯罪行為だが、「援助交際」という言葉を使うと「許される」ような雰囲気になる。

 例えば「企業献金」。政治家に「何か」を要求して、代わりにカネを出す。古今東西、これは「ワイロ」だ。にもかかわらず、新聞、テレビは「賄賂」と言わず、「企業献金」と言う。例えば「天下り」。日常的に大企業に「便宜」を図ってきた役人が堂々とその大企業に再就職する。「天下り」という言葉は(「批判的な響き」はあるが)、「賄賂の後払い」じゃないか?

牧太郎の青い空白い雲/973

 ともかく、メディアは曖昧な常用語を使って「犯罪」を矮小(わいしょう)化している。

 最近、メディアは「性暴力」のことを「不同意性交」と書く。「同意のない性交」というのは? 被害者が同意できない状態、拒否できない状態で性交等を行うこと。つまり昔で言う「強姦(ごうかん)」である。欧米文化の流入で「レイプ(rape)」という表現が一般化しているが、当方が子どもの頃(昭和中期)、「強姦は人間で一番してはならない行為」と教えられた。最近は「レイプ」という言葉さえ使わず「トラブル」という、「もっと曖昧な表現」を使う。

 例の「中居正広さんの性加害疑惑」である。報道によれば、フジテレビ側が「2人だけの飲み会」をセットして、その場で女性アナウンサーが中居さんに性暴力を受け、精神的ダメージでフジを退職。中居さんは9000万円の「口止め料」を支払った!という事件である。事実なら「トラブル」なんて「軽い」問題では断じてない。でも、中居さんは開き直った。

 19日のコメントを読んでビックリした。【トラブルがあったことは事実です。(中略)手を上げる等の暴力は一切ございません。なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました】

「トラブル」という言葉を使って、あっさり「犯罪」を認めたが......、「示談が成立した」と開き直る。

「示談」は本来、刑事事件を引き起こし「刑務所行き」になるべきだが、被害者にお金を払って被害届を出させないこと。当方から見れば「恥ずかしい話」だ。

「手を上げる等の暴力は一切ございません」との主張には、唖然(あぜん)とした。彼が犯したのは「強姦」ではないのか? 野獣の行為ではないのか?「トラブル」という言葉を使って「犯罪性」を矮小化した典型的なケース。ともかく、メディアの「曖昧な常用語」が数々の犯罪を野放しにしているのだ。

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