サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年10月13日号
話題の「国際芸術祭」、一方で新幹線の駅前が「草ぼうぼう」
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牧太郎の青い空白い雲/961

 長野県大町市(信濃大町)に「北アルプス国際芸術祭2024」を見に行った。「信濃大町」は長野県の北西部、3000㍍級の峰々が連なる北アルプスの麓(ふもと)の街だ。山懐は氷河や万年雪。山裾に緑豊かな里山。江戸時代、「塩の道」の宿場町として栄えた。

 この街で、3年に1度開催されるのが「北アルプス国際芸術祭」。今年も11の国と地域から36組のアーティストが作品を展示。街のすべてがアート!なのだ。しかも、それぞれの作品に「主張」が込められている。例えば......。大町駅に一番近いところに展示された「熱の連帯(足湯)」。「命が生きることとは熱を生み出し続けることである!」と主張する作家・村上慧さんは発泡スチロールで作った小さな家を背負って歩く超個性的な人物。落ち葉を大量に集め、その発酵熱を利用した「足湯」を作った。訪れた人は「葉っぱ」に付着した微生物が作り出す「熱」で足元を温めながら、風景を眺める。

 地域の資源と「芸術文化の創造性」を結びつけ、この街の潜在的な魅力を引き出す。これが市民の「連帯」なのだろう。面白い作品ばかり。機会があれば、ぜひ覗(のぞ)いてもらいたい(114日まで)。

 帰りに、近くの飯山市に寄ってみた。実は、ここに住む友人が「新幹線が走ったのに駅前が草ぼうぼう」と嘆いていたからだ。

 北陸新幹線飯山駅開業から約10年も経(た)つのに、確かに駅前の一等地は今も更地のまま。「飯山」も「信濃大町」と同じように古くから山国・信州と日本海を結ぶ交通の要所。塩、海産物の集散地で、大和朝廷時代の昔には「越後・出羽」開拓の要。新幹線の停車駅に相応(ふさわ)しい地域である。

 友人の話では、153月に北陸新幹線飯山駅の開業後、駅前の市有地約2700平方㍍に「飯山ホテル」が建設される予定だった。市は当初、民間業者のホテルに対し、ホテル部分に最大3億円、健康増進施設に2億円を補助する方針だったが、新しく市長になった人物が「補助金の支出はしかねる」と表明。ホテル建設は頓挫してしまった。事業者側は237月に民事調停を申し立てた。市と事業者側が話し合い、今年6月「8階建ての建物を4階に縮小する」「健康増進施設は整備しない」「ホテル部分への補助金を6000万円引き上げ、最大36000万円とする」などと合意。たまたま、当方が市を訪れた日、市議会で「合意案」を審議することになっていた。

 これでホテル建設は実現?と思った人が多かったようだが、賛成4人、反対11人で否決。裏で何があったのか分からないが、まるで「子どもの喧嘩(けんか)」みたいな結果ではないか? 駅前は「一番大事な顔」。このままでは「街」は停滞する。偉そうな言い分だが、飯山市に「市民の連帯」が必要な気がする。

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