サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年9月22日号
2世議員ばっかりの総裁選! 裏金より悪質なのが「世襲脱税」
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牧太郎の青い空白い雲/959 

 母から何度も「売り家と唐様で書く三代目!だよ」と言われた。

 その意味は......。創業者が何もないところから、努力して大成功。財産を築く。2代目は父親の苦労する姿を見ながら育つから頑張る。ところが3代目は「家柄」に頼り、商売をおろそかにするから、家屋敷を売りに出すようになる。「家業というものは、広げることより続けることが大変なんだ」と言っていた母が「お前が新聞記者になりたいなら、店を閉めるよ」と「料亭・深川亭」を廃業。6代目の決断だった。

 この家業は「女将(おかみ)の器量」が何よりも大事。7代目予定の僕は「やり手の女性」と結婚する手もあったが、「もう世襲の時代じゃないよ」と母は笑っていた。事実、昭和末期からサラリーマンを選んだり海外に移住したり......。家業を捨てる人が多くなった。

 それなのに、自民党総裁選、2世、3世ばかりが立候補している。

 本命?の小泉進次郎元環境相は父が純一郎元首相、祖父は防衛庁長官だった純也さん、曾祖父が逓信相、横須賀市長などを務めた又次郎さん。4代にわたる政治家一族である。河野太郎デジタル相も3世。父が衆院議長だった洋平さん、祖父が副総理だった一郎さん。加藤勝信元官房長官、林芳正官房長官、野田聖子元総務相も世襲議員だ。「最後の戦い」の石破茂元幹事長は新著『保守政治家 わが政策、わが天命』で「同じ選挙区からの出馬を一定期間制限する!」と主張しているが、ご自身は自治相や鳥取県知事を務めた父、二朗さんの地盤で当選している。

 民間の流れとは正反対に、政治家だけが「家業」を選ぶのは「楽ちん」だからだ。勉強は苦手だが、親のカネで留学。「箔(はく)」をつける。帰国すれば、コネで有名企業に就職して頃合いを見て退職。親の事務所で秘書。毎日、冠婚葬祭や地域の祭りに顔を出す。それだけしていれば国会議員になれる? カバン(鞄)、カンバン(看板)、ジバン(地盤)の三バンがあるから世襲候補はまず落選しない。

 その結果、国会議員の30%以上がいわゆる世襲議員といわれる。アメリカ、イギリスの世襲組は7%程度、ドイツは1%以下との調査もある。日本で世襲が多い原因の一つは「不平等税制」ではないか? 政治資金規正法で、個人は政治団体などに年間2000万円寄付できる。だから、親が毎年2000万円を子の政治団体に寄付しても贈与税ゼロ。親が急に死亡した場合、親の政治団体から子の政治団体にカネを移せば、相続税ゼロ。堂々と「脱税」しているようなもの。

 我が家は代々、相続税に苦しみ、母は遊興飲食税(昭和14年の支那事変特別税法の改正で導入)の支払いで、四苦八苦だった。

「恵まれ過ぎる世襲議員」だけが総理大臣になっていいのか?

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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