サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年9月15日号
小沢一郎さんまで〝最後の戦い〟。失礼だが「老残の妄執」みたいだ
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牧太郎の青い空白い雲/958 

「岸田さんでもできたんだから」と思ったのか、「オレもオレも」の自民党総裁選。大乱戦である。

 常連の石破茂さんは「最後の戦い。38年間の政治生活の総決算だ」と宣言。オレはお前らと違う!と言いたいんだろう。何しろ4回も総裁選に立候補している。

「全国を歩き『頑張ってくれよ』と言われた」と話すが、確かに「岸田退陣」表明翌日の815日、日経平均株価は284円も上昇。〝石破首相期待〟で、金融株と防衛関連株が値上げしたのか。

 世論調査では人気。でも党内ではなぜか不人気だ。20人の推薦人を集めるにも四苦八苦。優等生みたいな「正論」を語るが......。政調会長、幹事長をそれぞれ2年務めたが、カネを党内に配った気配がない。清廉なのか、それともカネを使う「器量」がないのか?

 それが不人気の原因なら「最後の戦い」も苦戦するだろう(笑)。

 もう一人、立候補しないのに「最後の戦い」を言う人がいる。剛腕・小沢一郎さんである。立憲民主党代表選の水面下で活発に動いている。

 小沢さんは813日(岸田退陣表明の前日)、野田佳彦元首相と会談。「代表選に出ろ! 応援する」と伝えたとされる。小沢さんは2012年、当時首相だった野田さんが推し進めた消費増税に反対。約50人の議員を引き連れて、民主党を離党。これが政権崩壊の引き金となった。

 だから二人は「天敵」。没交渉が続いていたが、小沢さんが突然「これまでの遺恨を乗り越えなきゃいけない!」と言い出した。82歳の小沢さんの狙いは野田さんを代表にして、次期衆院選で立憲民主、日本維新の会を中心にした「野党一本化」を目指すこと。「オール野党の軍師」になりたいのだ。

 若手が次々に名前を出した24年秋の政局。「最後の戦い」を意識している政治家は石破さん、小沢さんだけではない。「派閥」を維持した麻生太郎元首相、小泉進次郎を応援する菅義偉前首相......。お年寄りの「最後の戦い」組が何人もいる。

 その昔、「最後の戦い」という映画を見たことがある。文明が崩壊した未来世界。わずかな生存者たちは汚染された環境のせいで声帯に異常をきたし、言葉を話せなくなった。それでも人間同士は最後の戦いに挑む......。そんなストーリーだったような記憶があるが......。最後の最後まで、人間は「戦う」のだろう。

 しかし今、人々は未来のために、政治が古〜い「しがらみ」から脱却することを望んでいる。かつての大政治家が「最後の戦い」を標榜(ひょうぼう)するのは(失礼ながら)「老残の妄執」のように見える。人間、悟りきれず、心の迷いで「執念」から離れられないのは十分理解できる。でも......どんな人間も「引き際」が必要ではないか?

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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