牧太郎の青い空白い雲/951
近くの「町の中華」のオヤジさんが「福沢諭吉でいいじゃないか!」と愚痴をこぼしている。
7月3日、20年ぶりの新札発行! 1万円札は渋沢栄一、5000円札は津田梅子、1000円札は北里柴三郎の肖像。早く見たい。
でも、オヤジさんは店に置いてる自動券売機を「新札対応」に変えなければならない。これがかなりの負担らしい。だから、
「新札にする必要なんてない!」
と言うのだ。
新札を発行する最大の目的は偽造防止の強化。あくまでも一般論だが、新札発行から時間が経過すると、偽造のリスクが高まる。でも、本当に「偽造」が行われていたのか? オヤジさんは「1万円札をコピーする奴(やつ)はいるけど、大がかりな偽造団なんて聞いたことがない」と笑う。
「偽造防止!という、もっともらしい理由で、誰かが新札発行で儲(もう)けているんだよ」。確かに、自動販売機、ATM、セルフレジなどを扱う「日本自動販売システム機械工業会」の面々は儲けるのだろう。
「偽造防止!というより、新札発行の狙いは、タンス預金防止!だよ」とオヤジさん。
タンス預金の大半は「相続税を払わないため」の隠れ預金。でも、新札発行されると旧札は使えない!と勘違いした人が、旧札を急いで使いだす。新札発行の狙いは「タンス預金」あぶり出し?という一面もあるかもしれない。
旧札は今まで通り使える。でも、新札が大量に出回るようになると何となく、次第に旧札は使いづらくなるのだろう。
オヤジさんは言わないが、「新札詐欺」も登場するだろう。「従来の紙幣は使えなくなるので回収する」と言ったり、「古い紙幣を振り込めば、新しい紙幣に交換する」と言い、指定の銀行口座に振り込ませたり......。詐欺師は「期待」を込めて新札発行日を待っている?
愚痴の最後に「町の中華」のオヤジさんは「自動券売機絡みでウン万円も損をした。でも......。あそこの歯科医の先生はもっと気の毒。マイナ保険証導入で廃業するらしい。中華屋のほうが被害は少ないよな」と笑った。
笑い事ではない。
政府は今年12月、健康保険証を原則廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針。近くの歯科医の先生もマイナ保険証を読み取る「顔認証付きのカードリーダー」が必要とされる。導入にかかる費用は40万〜100万円。補助金は出るが、医院側の負担もバカにならない。ランニングコストとして毎月2万円ぐらい必要らしい。
その上、歯科医の先生は高齢でこの種の機器操作に不慣れ。「廃業するしかないか?」となるかもしれない。
お上の「勝手な政策変更」に、多くの人々が「被害者」になっているのだ!
.....................................................................................................................
◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある