サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年7月 7日号
県警本部長の「隠蔽」より悪質な「捜査資料を廃棄せよ」の命令?
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牧太郎の青い空白い雲/950

 鹿児島県警本部長が「身内の犯罪」を隠蔽(いんぺい)した事件。警察の内部資料を漏えいしたとして国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕(後に起訴)された前生活安全部長・本田尚志(たかし)さんが、資料を漏らしたのは「県警職員の犯罪行為を県警本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」と訴え、大騒ぎになった。

「騒動の経緯」についていくつかの情報を整理すると......。昨年12月、県内の公衆トイレで、個室を利用した女性がドアの上にスマートフォンのような物があるのに気づいた。驚いた女性が声を上げてドアを開けると、その場にいた盗撮犯は停(と)めていた「白い車」に飛び乗って逃走。枕崎署が防犯カメラを調べたら、「白い車」は何と捜査車両。使用した男は簡単に特定された。現職警察官の「盗撮」。本田さんは捜査を進めようとしたが、野川明輝本部長は「もう一度チャンスをやろう」「泳がせよう」と「隠蔽」を命じたという。

 本田さんは本部長の判断が許せなかった。退職後、彼はこの顚末(てんまつ)をまとめた文書をジャーナリストの一人に匿名で「闇をあばいてください」と送った。結果的には、「内部告発」は活字にならなかった。ジャーナリストは北海道在住。「裏取り」に時間がかかった。そこで、福岡にある調査報道サイト「HUNTER(ハンター)」に、情報を提供した。

 ところが、である。48日「ハンター」の事務所に県警のガサ(家宅捜索)が入った。その日、県警曽於(そお)署の藤井光樹巡査長(当時)が、捜査情報を外部に漏らした地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕(後に懲戒免職・起訴)。その関連で「ハンター」がガサを受けたのだ。

 県警の不祥事を書き続けていた「ハンター」はもう一つの「隠蔽」をすでに報道していた。20219月、新型コロナウイルスの療養施設で働く女性が県医師会の男性職員に乱暴?される事件が起こった。女性は鹿児島中央署に性被害を訴え、告訴状を出したが、なぜか受理されない。「ハンター」は「この男性職員の父親が県警OBだから?」と書いた。藤井元巡査長の情報を基にした独自記事だった。

 報道機関が「情報源のこと」で強制捜査を受けることは当方の知る限りない。なぜなら「取材源(情報源)の秘匿」はジャーナリズムの掟(おきて)。

 今回のガサは異常だ。このガサで県警は「本田さんの内部告発文書」の存在を知り、本田さんは逮捕された。

 警察権力が作る暗黒時代?

 実は「興味深い記事」がある。『毎日新聞』(68日)は「鹿児島県警が、刑事事件の裁判のやり直しを求める再審請求などで弁護側に利用されるのを防ぐため、作成済みの捜査書類を速やかに廃棄するよう促す内部向けの文書を作成していた疑い」などと報道した。

 事実なら......。日本の「民主主義」は既に崩壊している!

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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